JR東日本の気仙沼線は全区間でBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)が運行されており、その大部分で、鉄道の線路敷を活用した専用道が整備されています。
計画では、鉄道と並行して運行している前谷地~柳津間を除き、柳津~気仙沼間で90%程度の専用道を整備することになっています*1。
専用道の整備は沿線自治体の復興事業や河川の防災対策と足並みをそろえる形で進められてきましたが、最後の大物として残ったのが気仙沼市の市街地を通る松岩~不動の沢間で、2020年春に専用道に移行することが発表されています*2。
参考として、2019年10月時点の気仙沼線BRTのルート図は下記記事になりますのでご参照ください。
その移行予定区間の工事状況を、1月中旬に見てきましたのでご紹介します。
雨が上がったばかりのぐずついた天気でしたが、気仙沼駅前にある観光案内所で、電動アシスト付き自転車(1日700円)を借りて出発です。
今回の移行対象となるエリアは以下の通りです。赤線が現在の運行ルート、グレーの線が昔の鉄道線、つまり移行予定の専用道になります。
専用道上の新駅として赤岩港駅を設置する予定となっています。
この区間を、起点→終点の方向、つまり松岩から不動の沢へ、1駅間ずつに区切って紹介します。
松岩→赤岩港
松岩~赤岩港間の地図。アルファベットは写真の撮影場所、矢印は撮影方向です(以下同様)。
上の地図のA地点。松岩駅から北方向です。以前から専用道が整備済みで、トンネルまでつながっています。なお、手前には柵が置かれているのでこの先に立ち入ることはできません。
見切れていますが、専用道の上を跨いでいるように見えるのは建設中の三陸自動車道です。右側が気仙沼湾へ向かう方向で、湾を跨ぐ部分には巨大な斜張橋が建設中です。
専用道で右側に張り出した部分は待避所。BRTには感知式信号とバスロケーションシステムを連動させて閉塞を設けている区間と、待避所を多数設けて運転士が各自の判断で待避する区間とがあり、その後者のようです。
気仙沼線がトンネルを進む間、BRTの現在のルートとなっている県道26号線は丘を一つ越えていく形になります。
B地点は赤岩港駅。BRT専用道と交差する一般道からの撮影です。
赤岩港駅は、一般道との交差点の両側に片面ずつホームが設けられています。このホームの配置は路面電車でよく見るパターンではないかと思います。駅のところで交換はできませんが、両側ともその先に待避所が設けられています。
整備状況としてはまだ骨組みと屋根のみで、背中部分にはめるパネルや、ベンチなどはこれからのようです。
パッと見たところ、多くの駅で整備されている待合室やトイレを置くスペースがなさそうなのですが……。もしかしたら、そういったものは置かない簡素な駅になるのかもしれません。
南気仙沼方面は、先の方で上り勾配になっているのが見えます。先を見てみましょう。
赤岩港→南気仙沼
C地点、先ほど見えた上り勾配を横から見たところ。専用道の工事はほぼ完了しているように見えます。奥に見えるのは三陸自動車道です。
D地点、大川の上から撮影。中央部が山なりになったコンクリート橋はBRT独特な感じ。陸前小泉~本吉間などでも見ることができます。
E地点、専用道の北側から撮影。
この地点からは、三陸自動車道の斜張橋の工事の様子もよく見えます。2020年末の供用開始予定とのことです。
D地点とE地点の間、専用道をくぐる場所を撮影したのがF地点。
縦に2つ、高架橋が重なっているようです。
もしかしたら下側のは昔の鉄道用の橋なのではないか、と思って調べてみると、すぐに銘板が見つかりました。
「設計 東日本旅客鉄道株式会社」というのがすべてを物語っています。この2つの橋の高さの違いが、震災前・震災後を象徴するかのようです。
G地点は南気仙沼駅の部分になります。
南気仙沼駅は、駅前に駐車スペース、タクシー乗り場、自転車置き場やベンチなどが置かれた駅前ロータリーがあり、BRT専用道との出入口も設けられています。
既存駅でいえば大船渡線BRTの鹿折唐桑駅が近いイメージでしょう。
ただし、プレスリリースでは、駅舎が円筒形になっています。
この円筒形の駅舎は、以前は気仙沼線BRTの志津川駅、大船渡線BRTの陸前高田駅(今の栃ヶ沢公園駅付近)で用いられていましたが、それらは移転により姿を消したので久々に復活することになるようです。
私としては生で見る機会がなかった駅舎なので、実際に見てみるのが楽しみです。
専用道と駅前ロータリーの出入口は何に使うかというと、おそらくは気仙沼市立病院を経由する便が通ることになると思われます。気仙沼から見れば、不動の沢・南気仙沼と専用道を通った後、ここから一般道に出て気仙沼市立病院へ向かい、松岩駅手前で専用道に再度合流する、という形が考えられます。
近くには気仙沼線BRTの運行業務を受託しているミヤコーバスの気仙沼営業所があり、そこにBRTの車両も留置されているため、ここから出入りすることも考えられなくはないのですが、回送バスが専用道を走ると営業便の遅延につながる気がするので、回送は現状通り一般道を利用する形になるのではないかと思います。
駅前は一面空き地が広がっていますが、それでも、2019年5月に歩いた時に比べると、少し建物や店舗が増えてきた気がします。元のような街の姿に戻るには、まだまだ長い時間がかかるのでしょう。
南気仙沼→不動の沢
H地点から専用道の両側。左側が南気仙沼方面、右側が不動の沢方面。
2019年5月に訪問した際には跡形もなかった場所も、すっかり専用道が整備されていました。
どちらも両側に一般道があるあたりが、なんとなく鉄道らしい雰囲気を残している感じがします。
I地点、J地点から撮影した、大川を再び渡る橋。ここは撮影したら絵になりそうな場所だなあ、と思いながら見ていました。
きっと、鉄道時代に撮影された写真もいろいろあるのではないかと思います。
K地点。よく見ると、橋の右手前側はまだガードレールが設置されていないですね。左奥側はすでに設置済みのようです。
L地点は不動の沢駅前。ここから見る専用道もほぼ完成しているようです。
2枚目は別の日(2019年末)に、不動の沢を発車した直後の車内から撮影したものです。
以上、工事中の専用道と駅の様子を見てきましたが、専用道は大半が完成しているものの、駅はこれからのようです。
開業時期は「2020年春」とされていますが、3月14日のJRグループダイヤ改正に合わせるのかと思っていたら、それもまだ明らかになっていません。
鉄道事業としては廃止届が出された路線ですが、今後も着実に改良は進んでいくものと思います。それを折に触れて見届けていければと考えています。
*1:100%にならないのは、志津川駅付近の高台移転等により、ルートを変更していることと、海岸沿いを走る小金沢駅、大谷海岸駅付近で鉄道敷部分も利用して防潮堤を建設するためです。
*2:2019年10月9日 JR盛岡支社プレスリリース「気仙沼線 BRT 新駅の設置について」(https://www.jr-morioka.com/cgi-bin/pdf/press/pdf_1570598238_1.pdf)、「気仙沼線 BRT「南気仙沼駅」の専用道上への移設に向けた駅舎の工事について」(https://www.jr-morioka.com/cgi-bin/pdf/press/pdf_1570598385_1.pdf)より