前回の記事で、埼玉県熊谷市の熊谷桜堤をご紹介しました。今回はその続きになります。
「震災10年つれづれ」シリーズとしては、下記の記事の続きになります。
熊谷駅を8:44に出て、上野で常磐線の特急ひたちに乗り換え、いわきで普通列車に乗り継いで、到着したのは福島県の夜ノ森駅。13:12の到着ということで、4時間半の旅路となりました*1。
富岡町のシンボル、夜ノ森の桜並木
JR常磐線の夜ノ森駅は掘割にある駅で、鉄道的にはのり面に咲き誇っていたツツジが有名ですが*2、線路の両側の並木をはじめ、東側一帯には桜が咲き誇る地で、特に道路の両側の桜並木が見事なトンネルを作り出す場所がいくつかあります。
福島第一原発事故を題材にした映画「Fukushima 50」で、最後のシーンに出てくる桜並木でご存知の方も多いと思います。
夜ノ森駅のホームの出入口。この付近ではおなじみ線量計が設置されています。
出入口を出て正面にある窓からは、線路の両側に桜が咲いているのを見ることができます。
以下は、概ね上の図に沿って紹介していきます。
- 黄色い線の東側は帰還困難区域で、そのうち、緑色の道路と夜ノ森駅東口の広場のみ、2020年3月に避難指示が解除され、立ち入りができます(常磐線の線路部分も避難指示が解除されているので列車が運行できます)。
- 黄色い線より西側は2017年4月に避難指示が解除されたエリアです。
夜ノ森駅西口
下車した列車を見送った時の様子。西側の道路沿いは見事な桜並木でした。
夜ノ森駅の西口。出入口の上には、名物のさくらとつつじが描かれています。
少し散り初めでしたが、まだまだ見事なものです。
駅西側の風景。こちらはすでに避難指示が解除されており、だいたいよくある小さな町の風景です(表向きは……なのかもしれませんが)。
駅北側跨線橋
駅西側の桜並木は、跨線橋のもう少し北側まで続いています。
朝に訪ねていた熊谷桜堤のように、満開の桜並木と一面の菜の花の幻想郷のような世界にゆったりと浸る場所ではなく、帰還困難区域という現実と、桜の美しさが交錯する場所だと知ります。
両側をバリケードに囲まれた道を、粛然とした気持ちで歩を進めます。
さくら通りゲート
やがて、ゲートで閉じられた道の突き当たりへと来ました。
この先は「さくら通り」という通りだそうで、こうしてみても一面、見事に桜が咲き乱れているのがわかります。
「バリケードの向こうの桜並木」としてよくメディアに登場する場所だと思います。
ゲートの前には警備員の方が。通行証があれば一時的に立ち入りはできるので、その確認のために人員を配置しておく必要があります。
さくら通りの見事な並木道。でも、これはゲートの隙間から撮影したもの。
この周辺は先行して避難指示が解除できるよう準備が進められており、2023年春、2年後の帰還を目指しているそうです。
この先の道を歩ける日が楽しみです。
さて、ここからは南へと進みます。
「さくら通りゲート」から「開花基準木」の方向です。
この道路の両側にも桜並木。はじめ、ここが有名な桜並木なのかと思っていたぐらい、充分に見事な風景です。
バリケードの向こうでも、荒れた土地の中で桜が咲き誇っています。
桜が美しければ美しいほど、崩れたまま放置せざるを得ない家との対比が切なくなります。
一部の区画では、避難指示解除に向けて土地を整備する作業が行われているようでした。
やがて、ヤマザキショップの看板が見えてきました。
当然、店はバリケードの向こうです。
開花基準木
ここは、夜ノ森駅の東口からまっすぐ東に向かった場所。
ここにちょっとした広場があり、開花基準木があります。
桜の周りに植えられた色とりどりの花が、周囲にはない明るい雰囲気で彩っていました。
さらに桜並木を南へ進みます。
駅から近いためか、スーパーや飲食店だった施設が立ち並んでいました。
地震でめちゃくちゃになり、片づける暇もなく避難指示、そしてもう10年になります。
やがて帰還困難区域を抜け、桜のトンネルまで来ました。
桜のトンネル
4月3日、4日には桜まつりが開かれており、9時~15時の間で歩行者天国になっていました*3。
たくさんの人が訪れています。
そして桜のトンネルへ。視界を埋め尽くす桜に思わず息を飲みました。
原発事故による全町避難、そして2017年4月に避難指示が一部解除されたものの、町の再建は遥か遠い道のり。すでに避難先で新たな暮らしをしている方も多く、本当に再建が可能なのかどうかもわかりません。
桜並木はそこに自生するわけがなく、木を植え、大きく育つまで町の方々が大切に育てて来たもの。その見事に咲き誇る姿に、困難な状況にあっても決して屈しない、という富岡町の誇りを見たように思いました。
絵を描きたくなるのもよくわかる美しさでした。
夜ノ森の夜桜
夜は3か所でライトアップが行われました。
夜ノ森駅西側の桜並木。
開花基準木。この時、風が吹いていたので枝が大きく揺れていました。
そして、桜のトンネルは夜も幻想的な絶景でした。
夜は歩行者天国が解除されてしまい、中央は車が通るので、いい画角でじっくり撮りにくいのが難点ですね。
ライトアップとは関係ありませんが、夜桜と星空。桜には前を通る車のライトが当たっていました。
まとめ
富岡町、そして町が属する双葉郡にとって、夜ノ森の桜は地域のシンボル的な存在です。
例えば、1年前の3月14日にJR常磐線が全線で運転を再開した日、桜色の傘やタオル、フラッグを用意し、双葉郡内の沿線で列車を出迎えていました。
富岡駅前の飲食店の壁には、夜ノ森の桜の写真が掲示されていますが、ホログラムの原理で立体感を感じられるという力の入れようです。
周囲に帰還困難区域が存在する中での花見は、他の場所のように心が浮き立つだけではなく、町が置かれた状況を認識することにもなります。
だからこそ、咲き誇る桜並木に託した地域の人々の思いも伝わってきますし、他とは全く違った経験になるという意味で、この場所の桜を見る価値があると思いました。
今年の桜まつりは、新型コロナウイルス対策で飲食物の販売がなく(飲み物は売っていましたが)、物販のみで縮小して行われましたが、もし来年、本来の形で実施できるのであれば、今年とはまた違った楽しみがあると思いますので、ぜひ改めて訪ねたいと考えています。