君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

震災10年つれづれ (4)帰還困難区域と隣り合わせの町の誇り。夜ノ森の桜並木へ

f:id:katayoku_no_hito:20210403142021j:plain

思わず息をのんだ美しさ。福島県富岡町の夜ノ森の桜並木

前回の記事で、埼玉県熊谷市熊谷桜堤をご紹介しました。今回はその続きになります。

a-train.hateblo.jp

「震災10年つれづれ」シリーズとしては、下記の記事の続きになります。

a-train.hateblo.jp

熊谷駅を8:44に出て、上野で常磐線の特急ひたちに乗り換え、いわきで普通列車に乗り継いで、到着したのは福島県夜ノ森駅。13:12の到着ということで、4時間半の旅路となりました*1

f:id:katayoku_no_hito:20210403121335j:plain
f:id:katayoku_no_hito:20210403124051j:plain
沿線に咲く桜。いわき駅(左)と広野駅(右)

富岡町のシンボル、夜ノ森の桜並木

JR常磐線夜ノ森駅は掘割にある駅で、鉄道的にはのり面に咲き誇っていたツツジが有名ですが*2、線路の両側の並木をはじめ、東側一帯には桜が咲き誇る地で、特に道路の両側の桜並木が見事なトンネルを作り出す場所がいくつかあります。

福島第一原発事故を題材にした映画「Fukushima 50」で、最後のシーンに出てくる桜並木でご存知の方も多いと思います。

f:id:katayoku_no_hito:20210403151907j:plain

夜ノ森駅のホームの出入口。この付近ではおなじみ線量計が設置されています。

f:id:katayoku_no_hito:20210403131106j:plain

出入口を出て正面にある窓からは、線路の両側に桜が咲いているのを見ることができます。

f:id:katayoku_no_hito:20210414011721p:plain

夜ノ森駅周辺の地図。Googleマイマップで作成

以下は、概ね上の図に沿って紹介していきます。

  • 黄色い線の東側は帰還困難区域で、そのうち、緑色の道路と夜ノ森駅東口の広場のみ、2020年3月に避難指示が解除され、立ち入りができます(常磐線の線路部分も避難指示が解除されているので列車が運行できます)。
  • 黄色い線より西側は2017年4月に避難指示が解除されたエリアです。

夜ノ森駅西口

f:id:katayoku_no_hito:20210403130649j:plain

下車した列車を見送った時の様子。西側の道路沿いは見事な桜並木でした。

f:id:katayoku_no_hito:20210403131240j:plain

夜ノ森駅の西口。出入口の上には、名物のさくらとつつじが描かれています。

f:id:katayoku_no_hito:20210403132036j:plain

少し散り初めでしたが、まだまだ見事なものです。

f:id:katayoku_no_hito:20210403132500j:plain

駅西側の風景。こちらはすでに避難指示が解除されており、だいたいよくある小さな町の風景です(表向きは……なのかもしれませんが)。

駅北側跨線橋

北に進んで、常磐線跨線橋を渡ります。

f:id:katayoku_no_hito:20210403132706j:plain

駅西側の桜並木は、跨線橋のもう少し北側まで続いています。

跨線橋を渡ると、常磐線東側の帰還困難区域に入ります。

f:id:katayoku_no_hito:20210403132831j:plain

f:id:katayoku_no_hito:20210403133020j:plain

f:id:katayoku_no_hito:20210403133111j:plain

朝に訪ねていた熊谷桜堤のように、満開の桜並木と一面の菜の花の幻想郷のような世界にゆったりと浸る場所ではなく、帰還困難区域という現実と、桜の美しさが交錯する場所だと知ります。

両側をバリケードに囲まれた道を、粛然とした気持ちで歩を進めます。

さくら通りゲート

f:id:katayoku_no_hito:20210403133257j:plain

やがて、ゲートで閉じられた道の突き当たりへと来ました。

この先は「さくら通り」という通りだそうで、こうしてみても一面、見事に桜が咲き乱れているのがわかります。

バリケードの向こうの桜並木」としてよくメディアに登場する場所だと思います。

f:id:katayoku_no_hito:20210403133354j:plain

ゲートの前には警備員の方が。通行証があれば一時的に立ち入りはできるので、その確認のために人員を配置しておく必要があります。

f:id:katayoku_no_hito:20210403133650j:plain

さくら通りの見事な並木道。でも、これはゲートの隙間から撮影したもの。

f:id:katayoku_no_hito:20210403133512j:plain

この周辺は先行して避難指示が解除できるよう準備が進められており、2023年春、2年後の帰還を目指しているそうです。

この先の道を歩ける日が楽しみです。

さて、ここからは南へと進みます。

「さくら通りゲート」から「開花基準木」の方向です。

f:id:katayoku_no_hito:20210414011721p:plain

f:id:katayoku_no_hito:20210403133901j:plain

この道路の両側にも桜並木。はじめ、ここが有名な桜並木なのかと思っていたぐらい、充分に見事な風景です。

f:id:katayoku_no_hito:20210403133943j:plain

バリケードの向こうでも、荒れた土地の中で桜が咲き誇っています。

f:id:katayoku_no_hito:20210403134135j:plain

桜が美しければ美しいほど、崩れたまま放置せざるを得ない家との対比が切なくなります。

f:id:katayoku_no_hito:20210403134549j:plain

一部の区画では、避難指示解除に向けて土地を整備する作業が行われているようでした。

f:id:katayoku_no_hito:20210403134819j:plain

やがて、ヤマザキショップの看板が見えてきました。

当然、店はバリケードの向こうです。

開花基準木

ここは、夜ノ森駅の東口からまっすぐ東に向かった場所。

f:id:katayoku_no_hito:20210403135721j:plain

ここにちょっとした広場があり、開花基準木があります。

桜の周りに植えられた色とりどりの花が、周囲にはない明るい雰囲気で彩っていました。

f:id:katayoku_no_hito:20210403140633j:plain

さらに桜並木を南へ進みます。

f:id:katayoku_no_hito:20210403141320j:plain

f:id:katayoku_no_hito:20210403141408j:plain

駅から近いためか、スーパーや飲食店だった施設が立ち並んでいました。

f:id:katayoku_no_hito:20210403141515j:plain

地震でめちゃくちゃになり、片づける暇もなく避難指示、そしてもう10年になります。

やがて帰還困難区域を抜け、桜のトンネルまで来ました。

桜のトンネル

4月3日、4日には桜まつりが開かれており、9時~15時の間で歩行者天国になっていました*3

f:id:katayoku_no_hito:20210403141757j:plain

f:id:katayoku_no_hito:20210403141826j:plain

たくさんの人が訪れています。

f:id:katayoku_no_hito:20210403142021j:plain

そして桜のトンネルへ。視界を埋め尽くす桜に思わず息を飲みました。

原発事故による全町避難、そして2017年4月に避難指示が一部解除されたものの、町の再建は遥か遠い道のり。すでに避難先で新たな暮らしをしている方も多く、本当に再建が可能なのかどうかもわかりません。

桜並木はそこに自生するわけがなく、木を植え、大きく育つまで町の方々が大切に育てて来たもの。その見事に咲き誇る姿に、困難な状況にあっても決して屈しない、という富岡町の誇りを見たように思いました。

f:id:katayoku_no_hito:20210403142309j:plain

f:id:katayoku_no_hito:20210403142826j:plain

絵を描きたくなるのもよくわかる美しさでした。

夜ノ森の夜桜

夜は3か所でライトアップが行われました。

f:id:katayoku_no_hito:20210403185440j:plain

夜ノ森駅西側の桜並木。

f:id:katayoku_no_hito:20210403190540j:plain

開花基準木。この時、風が吹いていたので枝が大きく揺れていました。

f:id:katayoku_no_hito:20210403195427j:plain

そして、桜のトンネルは夜も幻想的な絶景でした。

夜は歩行者天国が解除されてしまい、中央は車が通るので、いい画角でじっくり撮りにくいのが難点ですね。

f:id:katayoku_no_hito:20210403192401j:plain

ライトアップとは関係ありませんが、夜桜と星空。桜には前を通る車のライトが当たっていました。

まとめ

富岡町、そして町が属する双葉郡にとって、夜ノ森の桜は地域のシンボル的な存在です。

例えば、1年前の3月14日にJR常磐線が全線で運転を再開した日、桜色の傘やタオル、フラッグを用意し、双葉郡内の沿線で列車を出迎えていました。

f:id:katayoku_no_hito:20200314102039j:plain

f:id:katayoku_no_hito:20210403210910j:plain

富岡駅前の飲食店の壁には、夜ノ森の桜の写真が掲示されていますが、ホログラムの原理で立体感を感じられるという力の入れようです。

周囲に帰還困難区域が存在する中での花見は、他の場所のように心が浮き立つだけではなく、町が置かれた状況を認識することにもなります。

だからこそ、咲き誇る桜並木に託した地域の人々の思いも伝わってきますし、他とは全く違った経験になるという意味で、この場所の桜を見る価値があると思いました。

今年の桜まつりは、新型コロナウイルス対策で飲食物の販売がなく(飲み物は売っていましたが)、物販のみで縮小して行われましたが、もし来年、本来の形で実施できるのであれば、今年とはまた違った楽しみがあると思いますので、ぜひ改めて訪ねたいと考えています。

*1:Navitimeで調べると、新幹線で大宮→仙台へ、そこから常磐線に乗り換えると30分程度早く着いたようですが、さすがに経路が変態すぎるでしょう。

*2:現在は除染のために伐採され、復活させる取り組みが進められているそうです。

*3:本来は4月10日、11日に予定していたのを、開花状況から前倒しで実施したそうです。