君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

震災10年つれづれ (3)気仙沼線BRTの鉄道転換の可能性はあるのか

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本吉駅を出発して専用道を進む気仙沼線BRTのバス

今回は「震災10年つれづれ」の3つ目で、JR気仙沼線について書いてみることにします。

前回、「三陸縦貫鉄道」について言及しましたが、JR気仙沼線はその一翼を担っていた路線です。

a-train.hateblo.jp

前谷地~気仙沼間の全線のうち、内陸部の前谷地~柳津間は鉄道として復旧し、津波による甚大な被害が発生した柳津~気仙沼間はBRT(Bus Rapid Transitバス高速輸送システム)へ転換しての復旧となっています。

気仙沼線BRTには将来の鉄道復旧の可能性が残されている?

昨年(2020年)の12月1日から今年の3月11日まで、気仙沼線大船渡線BRTの写真をtwitterで1日1枚ずつアップしていく「#10年後のあの日へ_気仙沼線大船渡線BRT」という企画を行っていました。

a-train.hateblo.jp

毎日アップしているとそれなりに反応をいただけることもあり、その中で教えられることもあったのですが、特に印象に残っているのは、気仙沼線でBRTのために再建された橋梁や高架橋などが、鉄道も通せる規格で造られているらしい、ということでした。

JR東日本気仙沼線柳津~気仙沼間、大船渡線気仙沼~盛間で鉄道事業廃止届を提出した2019年11月13日、気仙沼市長は以下のようなコメントを発表しました。

今回の事業廃止は,適切な形でBRT運行を行うためのもので,事前にJR東日本から説明があり,その際,平成28年3月14日に同社と取り交わした要望書の中で「地域の先人に敬意を表し,将来世代に希望を繋ぐため,遠い将来における気仙沼線の鉄路での復活の可能性を今後も残すこと」に変わりがないことを確認している。

https://www.kesennuma.miyagi.jp/sec/s002/020/030/050/020/080/0111/20191113_kikaku.pdf

「遠い将来における気仙沼線の鉄路での復活の可能性を今後も残すこと」というのは、鉄道での復旧を望んできた立場として一応そう言っておかなければいけない、という程度で、気仙沼線の線路敷の90%程度をBRT専用道として保持すること以外は特に考慮されていないものと思っていました。

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例えば、気仙沼線BRTが横切っていくいくつかの川は、津波の遡上に備えて堤防が以前よりもはるかに高くなり、それに伴って橋も高くなりました。したがって、アプローチ部分の勾配は、鉄道では難しいような急勾配になっていると思っていたのです。

ところが、例えば上の画像の面瀬川(松岩駅南側)に至る勾配も35パーミルで、普通の鉄道車両でもギリギリ問題なく走れる程度の勾配に抑えられているということでした。

もし、JR東日本が将来的に鉄道への転換*1も可能な形を保持しているということになると、気仙沼市長のコメントの捉え方も変わってきます。

このコメントは市からJRへの一方的な要望だと思っていましたが、実はボールはむしろ沿線の方にある、ということになります。

JR東日本は、気仙沼線での鉄道復旧の条件やBRTでの復旧を進める理由として、以下のことを挙げていました。

  1. 鉄道での復旧には、震災前の状態に復旧する費用として300億円、津波からの安全確保や街づくりに合わせたルート移設費用として400億円と見積もり、後者については自社での負担はできない。
  2. 気仙沼線の利用者は減少し続けており(震災直前の2010年度の柳津~気仙沼間の輸送密度は893*2)、将来にわたって持続可能な手段としてBRTを導入したい。

逆に言えば、1.2.の条件、つまり、安全確保等にかかる費用を自治体などが負担し、将来にわたって鉄道を持続可能と判断できる方策(利用促進策や自治体での経費負担など)が示されれば、JRとしては鉄道での復旧に応じるほかないわけです。実際、豪雨で被災した只見線の不通区間はそうして鉄道での復旧が決まりました。

ちなみに、鉄道事業を廃止しても、復活は可能です。広島県内のJR可部線は、可部~三段峡間を廃止した際にこの区間の鉄道事業も廃止しましたが、一部区間の再建に伴って認可を再取得しています。

では、気仙沼線の沿線である気仙沼市南三陸町に鉄道を復活させる施策が可能なのかといえば、現実的には相当厳しいでしょう。

震災以前からの人口減少のトレンド。震災による地域産業への多大なダメージ。そして、沿線に住宅が立ち並んでいたところも、災害危険区域に指定されて居住が禁止され、高台へ移転してしまった地区が数多くあります。南三陸町志津川地区はそうした高台を巡るルートになっていますが、専用道を維持する限りは途中に駅を増設するのが精一杯です。

柳津~気仙沼間の輸送密度はBRT化後、2019年度では263*3という数字になっています。

この減少の理由として、鉄道からBRTに転換されたことの影響もあると思いますが、それ以上にやはり上述した沿線需要の減少の方がはるかに大きいでしょう。これが、鉄道に転換したら以前と同様かそれ以上に復活する、ということを示さないといけません。もしくは、その見込みがなければ、経費の一部を自治体が負担するということを考える必要が出てきます。

少なくとも短期的には無理だということがわかっているから、気仙沼市長のコメントも、「遠い将来」という表現になっているのでしょう。

今は無理でも、いつか、鉄道を必要とするような町に復興させてみせる……そうした切ない思いが込められていると考えるのは、飛躍のしすぎでしょうか。

気仙沼線BRTと大船渡線BRTの違い

このブログでは気仙沼線BRTと大船渡線BRTを一括して扱っていますし、一般的にも両者は一体として扱われることが多いように思います。

ただ、両者の状況は実はけっこう異なっている、ということも、今回のテーマに関連して気づいたことでした。

大船渡線BRTは新駅の設置やルート変更に積極的なのに対し、気仙沼線BRTは比較的鉄道に近い形を維持して運行を続けています。BRTになってから新設された駅数は、気仙沼線の5駅*4に対して大船渡線は14駅*5に上り、駅数では気仙沼線を上回っています*6。かつての鉄道線の形状から「ドラゴンレール大船渡線」の愛称がありますが、いまや気仙沼~盛間の最短ルートの他、上鹿折方面、陸前今泉経由、陸前矢作方面、高田病院経由と分岐があり、「5又のおろち」と化しています。

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JR東日本Webサイト(気仙沼線・大船渡線BRT(バス高速輸送システム))より引用。大船渡線BRTの方が分岐や新駅が目立つ。

大船渡線BRTは、鹿折唐桑陸前高田間で鉄道とは大きく異なる経路を採ったこともあり、今から鉄道として復活させるというのはかなりハードルが高いように思います。

また、BRTでの本復旧にあたって、沿線の大船渡市、陸前高田市気仙沼市とも鉄道再建の要望をつけずに同意しているので*7大船渡線BRTの鉄道への転換が今後、議論になることはないでしょう。

気仙沼市が、気仙沼線については引き続き鉄道への転換を要望する一方、大船渡線については以下のようにBRTでの復旧を容認しており*8、その対照が特徴的です。

気仙沼市は「利用者の中心である岩手側の2市の意向を尊重する」とした上で、菅原茂市長が共同通信の取材に「市民から特に異論がなく、BRT受け入れの方針を正式に固めた」と明言した。

もちろん、気仙沼市の立場として、石巻・仙台方面に向かう気仙沼線の方が大船渡線(盛方面)より重要でしょうから、当然と言えば当然ではあります。

気仙沼市の人口ビジョン

俯瞰して見れば、すでに地方鉄道は撤退戦に入っていることは間違いありません。沿線人口はどこも急速に減少が進んでいます。

例えば気仙沼市の場合でも、現在6万人強の人口が、10年で1万人ずつ減少していくという推計が出ているようです。

ところが、気仙沼市としては50年後に反転攻勢に出るビジョンを掲げています。

www.kesennuma.miyagi.jp

ここに掲げられた人口ビジョンでは、「2070年度に47,000人程度で人口が下げ止まり、その後は増加に転ずる」という目標が設定されています。

その実現性はともかく、このビジョンが、気仙沼線の鉄路復活を目指す「遠い将来」の根拠となっているのかもしれません。

まあ、実現したとしても本当に遠い将来になりそうなので、私個人が期待をかけるというレベルの話ではなさそうですが、とりあえず、気仙沼線BRTと大船渡線BRTの特徴の違いに気仙沼市との合意が影響しているのかもしれない、という気づきがあったことを書き記しておきたいと思います。

次は下記の記事になります。

a-train.hateblo.jp

*1:一般的に、鉄道からバスに変わることを「バス転換」と呼ぶことから、バス路線となった気仙沼線BRTを鉄道に変更することも「鉄道転換」と呼ぶべきかと思います。

*2:JR東日本「路線別ご利用状況(2010~2014年度)」(https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/pdf/2010-2014.pdf)より

*3:JR東日本「路線別ご利用状況(2015~2019年度)」(https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/pdf/2015-2019.pdf)より

*4:南三陸町役場・病院前、志津川中央団地、岩月、赤岩港、気仙沼市立病院の各駅です。

*5:八幡大橋(東陵高校)、唐桑大沢、長部、陸前今泉、奇跡の一本松、栃ヶ沢公園、高田高校前、高田病院、西下、碁石海岸口、大船渡丸森、大船渡魚市場前、地ノ森、田茂山の各駅です。

*6:2021年3月時点で、気仙沼線BRTは前谷地駅を含めて24駅、大船渡線BRTは26駅。

*7:詳細は東海新報の下記記事を参照。

tohkaishimpo.com

*8:詳細は産経新聞の下記記事を参照。

www.sankei.com