宮城県気仙沼市の冬の恒例行事となっている、イルミネーションプロジェクト「ONE-LINE」を見るために気仙沼を訪ねました。
震災によって光が失われた街に光を取り戻したい。そんな思いで始まった企画だそうです。
「光」というのは、物理的な光でもあり、「希望の光」というような精神的な意味もあります。
実は1年前にも、ライトアップ自体は見ていたのですが、都市部に住んでいれば冬にはよくあるものなので大して気に留めていませんでした。しかし、震災復興につながる企画ということであれば、改めてじっくりと見て、その思いを汲み取らなければいけないのではないか、と思いました。
この冬はコロナ禍にあって、点灯式などのイベントは行われなかったようですが、市内中心部の数か所でライトアップが行われていたので、一部ですが訪ね歩いてみました。
内湾地区
復興にあたって、「迎(ムカエル)」「創(ウマレル)」「拓(ヒラケル)」「結(ユワエル)」と名付けられた4つの施設が建てられ、飲食店などの各種店舗、公共施設、ラジオ放送局、遊覧船乗り場などが入居しています。
中でも湾に面した「迎」「創」は防潮堤と一体となって作られているのが特徴で、防災と景観の両立を図るものとなっています。
イルミネーションが点灯されるまで、「拓」に入居する「みやカフェ」で、フライドポテトと気仙沼ジンジャーを使ったホットドリンクをいただいていました。
「創(ウマレル)」と「迎(ムカエル)」
防潮堤と一体となった2つの施設。ともに外観デザインに工夫が凝らされているので、ライトアップするととても映えます。この一帯のデザインは2019年度のグッドデザイン賞を受賞しています。
陸側から見た「創」。「PIER7」とは、この建物に入る気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザの愛称で、7番岸壁の前にあることから名付けられたそうです。
陸側から見た「迎」。こちらはレストラン・カフェがメインです。歩道にツリー型のライトアップが行われているのが特徴。
2つの施設をつなぐデッキ。下側は防潮堤の水門であり、その上部をデッキとして利用しています。
「拓(ヒラケル)」「結(ユワエル)」と紫神社前商店街
陸側にある2つの施設は、その間の歩道部分がライトアップされていました。
「拓」は日本アムウェイ財団の復興支援事業であるアムウェイハウスとして建設され、冒頭に紹介した「みやカフェ」などの店舗が入っています。反対側の「結」(写真には写ってないですが)は複数の小さな建物を組み合わせたストリート風で、「気仙沼スローストリート」と呼ばれています。最近は全国に展開している高級食パン店が開業したことでも話題になりました。
さらに陸側にある「南町紫神社前商店街」も通路の手すりを中心にライトアップ。
裏山に紫神社があり、付近の方々が避難した記憶から、この名前がついたそうです。
個人的には飲み屋的な店が多くてあまり足が向いていないのですが、いつか訪ねてみたいと思っています。
遊覧船乗り場
以前にご紹介した「気仙沼ベイクルーズ」の遊覧船乗り場。まるで遊園地のようなゴージャスなライトアップになっていました。
遊覧船乗り場の奥、高台にあるホテルに続く道にもライトアップが見られました。
遊覧船については下記の記事をご覧ください。
魚町防潮堤
忘れてはいけない役者は、「迎(ムカエル)」に隣接する魚町(さかなまち)地区の防潮堤。
綿密な計算の上で防潮堤の高さを可能な限り低くし、さらに上部をフラップゲート(津波が来た時に、その力を利用して自動的に起立するゲート)として背後から海が見える視界を確保しています*1。そのフラップゲートの部分がこうしてライトアップされていました。
フラップゲート越しに見る「創(ウマレル)」と「迎(ムカエル)」。ライトアップがなければ、向こうの建物がすべて見通せることがわかるかと思います。
ここから、少し歩いて気仙沼市役所の方へ向かいました。
気仙沼市役所付近
気仙沼駅の東側にある気仙沼市役所付近でもライトアップが行われていました。
おまけ(気仙沼駅前)
ONE-LINEの一環かどうかわかりませんが、気仙沼駅前のライトアップもご紹介します。
まとめ
気仙沼から帰る大船渡線列車の発車時刻は17:50。その前の1時間ほどで内湾地区→市役所前→気仙沼駅と移動して見て回ったので、実はあまりじっくりと見れたわけではないのですが、イルミネーションによる居心地の良さを感じることができました。
地方の町に旅行をすると、市街地であっても、日が暮れるととたんに暗く寂しくなってしまう、という状態に出くわすことは少なくありません。ましてや、震災で内湾地区は壊滅し、当初は街明かりなどほとんどなかったのだと思います。切実に「光」を欲していただろうことに思いを巡らせる時間でもありました。
実は、クリスマスまでの時期には、海面の上に青いクリスマスツリーが浮かんでいたそうです。それは残念ながら見ることができなかったので、次の冬も行われるのであればぜひ見に行きたいと考えています。
*1:「設計ミスで誤って22cm高くなり、住民が作り直しを求めた」ということでニュースになった防潮堤です。「なぜ防潮堤が高くなって文句を言うのか」と思われるかもしれませんが、防潮堤自体に反対する住民も多い中、地区協議会がギリギリの線を探って妥結にこぎ着けた努力を踏みにじられた、ということを踏まえる必要があります。結局、背後の土地をその分嵩上げすることで対処したようです。