4月13日に開幕した大阪・関西万博。
期間中いつでも入場できる「通期パス」を買ったので、こまめに訪ねていろいろと巡りたいと思っています。
12度目の訪問は5月20日の火曜日、夜からの訪問となりました。
- 復興庁、経済産業省による「東日本大震災からのよりよい復興」の展示
- 噴水ショー「アオと夜の虹のパレード」を予約スペースから
- 「One World, One Planet」のドローンショー。null2の音がなければいいのだけど
- 5月20日のまとめ:イベントだけでも楽しめる万博
復興庁、経済産業省による「東日本大震災からのよりよい復興」の展示
この日、まず見たかったのは、復興庁、経済産業省が「よりよい復興」と銘打った東日本大震災からの復興の展示でした。
これは前日の5月19日から24日までの6日間の企画でした。
expo2025-portal.reconstruction.go.jp
このブログでも、東日本大震災の被災地である福島県、宮城県、岩手県を訪ねた記録はいろいろと書いてきました。2019年の秋ごろから頻繁に訪ねるようになり、大阪に転居してからも年に数回は訪ねていて、直近では2024年の年末から今年の年明けにかけて、8日間のロングランで訪ねていました。
その中で一度も聞いたことがなかった「よりよい復興」という言葉で展示されるのはどういったものなのか、ということが気になっていました。


日本語で一般的には「創造的復興」。「よりよい復興」は「Build Back Better」の直訳?
万博では、いろいろと見慣れない言葉を見ることがあります。「よりよい復興」というのもその1つですが、これは2015年、仙台で開催された国連防災世界会議の中で日本が提唱した言葉であったようです。国際会議ですので、まず英語の「Build Back Better」という語があって、それを直訳した言葉のように見えます。ちなみに、日本では同じような意味でよく「創造的復興」の語が用いられるように思います。
つまり、復興の際に以前と同じ形に戻すのではなく、さまざまな創造的なアイデアを加えて、よりよい復興のあり方を目指すという考え方です。
会場に入ってすぐのところにあった、「Build Back Better」の頭文字をとった「BBB」の並び。
左の「B」には原子力災害伝承館や相馬野馬追といった福島県の写真。
真ん中の「B」は松島や南三陸町の旧防災対策庁舎、女川駅前の街並み、気仙沼の龍の松や気嵐などの宮城県の写真。
そして右の「B」には奇跡の一本松や宮古の浄土ヶ浜、いわてTSUNAMIメモリアル、旧たろう観光ホテル、三陸鉄道といった岩手県の写真が用いられていました。
震災と復興、現状の課題について説明する映像




最初に入ったブースでは、この展示の概要について説明する数分間の映像が流れていました。震災の発生とその後の復興、福島県を中心に今なお残る課題といったことを紹介するものでした。
その先の会場の展示は2つに分かれていて、復興庁の展示は、東日本大震災そのものについての説明と、その後の福島県、宮城県、岩手県の復興がメインとなっていました。そして経済産業省は、原発事故の影響を受けた福島県の浜通り地域の展示となっていました。
まずは復興庁の展示の方から巡ってみます。


事前の宣伝でもよくとりあげられていた、東日本大震災の津波高についての立体的な展示。
この曲がっているのは何の意味があるんだろう? と考えていました。もしかしたら、この会場の実際の標高に合わせたのかな? とふと思ったのですが、でも万博会場の夢洲は水面から10m程度まで嵩上げされているのでそうではなさそうです。
あれこれ考えましたが、「本当は直立させてもっと高くしたかったけど、天井の高さの都合でこうなったのだろう」という結論になりました。
裏面には、津波の高さを示すさまざまな数字についての基礎知識や、大屋根リングと比較した説明がありました。
産業の復興についての展示




産業の復興についての展示の目玉は各県の試食ブース。まあ、夜なので最初から諦めていましたが。
「戸倉っこカキ」は、南三陸町を訪ねた時にいただくことも多く、復興に向けてさまざまな挑戦的な取り組みをされているのを知っていたのでちょっと親近感がありました。
他にも、さまざまな産業復興の取り組みがパネルや実際の商品で展示されていました。



また、福島研究教育機構(F-REI)の展示ブースがあり、研究を行っている内容が展示されていました。係の方から説明をいただきながら見ていましたが、避難指示が解除された後も住民の帰還が進まない地域において、どのように産業を維持できるのかといったこともテーマとしてあるようです。
インフラの復興、震災伝承についての展示
他には、インフラの復興、観光や防災の取り組み、震災伝承といったことも展示されていました。このあたりは個人的にはわりとよく知っている内容だったのであまり深く見なかったのですが、JR気仙沼線、大船渡線で鉄道跡を活用したBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)も、インフラ復興の一例として紹介されていました。




経済産業省は「福島イノベーションコースト構想」など福島県浜通り地域がメイン
復興庁が福島・宮城・岩手3県の震災からの復興全般を扱ったのに対し、経済産業省は福島県の浜通り地域に特化した展示となっていました。




世界からの支援やお見舞い
最後に見たのは、震災への支援やお見舞いをいただいた世界の国と地域、国際機関を列挙する掲示でした。地球上でも有数とも言えるような大災害に、全世界が関心を寄せていたことがわかります。
せっかく万博という場ですので、具体的な事例をいくつか紹介してもよかったのではないかと思いました。
被災地の救援、原発事故の収束に多大な協力を受けた米軍のトモダチ作戦。
三陸鉄道の車両に掲げられている、クウェートへの感謝のメッセージ。
チリから寄贈されたモアイ像が町のシンボルになっている宮城県南三陸町。
いずれもこの万博にパビリオンを出展している国です。
他にも挙げたらキリがないのでかえって絞れない、ということはあるのかもしれませんが。
「よりよい復興」の表現から切り捨てられたもの
展示を一通り見ると、震災後、復興庁を中心とした「よりよい復興」のコンセプトのもと、明確な筋道を立てて官民一丸となって復興にまい進してきた、という印象を受けるのですが、でも、そんな風に片づけてしまっていいのかな? という違和感を持ちました。
会場の東ゲートの近くには、岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」をデザインしたデジタルモニュメントが設置されています。


(右)実際の奇跡の一本松(2024年2月)
実際には、この奇跡の一本松の後ろには高い防潮堤が築かれていて、海を見ることはできません。でも、この絵ではそんな防潮堤はなく、背後に海と山が描かれています。
防潮堤というのは、震災後、被災した人々が正解のない問題に一つ一つ向き合って、悩みながら道なき道を進んできたシンボルのようなものだと思うのです。「よりよい復興」という言葉があったとして、何をもって「よい」とするのかという根源的な問いがそこにはあったはずです。
海が見えなくなる防潮堤を、喜んで受け入れた人はほとんどいないでしょう。将来の安全のために必要だという国の方針と、なりわいの維持や海への愛着をどう両立させられるのか、誰もが悩んだはずです。
「海の見えるまちづくり」で知られる宮城県の女川町のように、地形上、可能な条件があるところは防潮堤が目立たないような町づくりをしました*1。
防潮堤と公共施設を一体化させたり、防潮堤の上に国道を通したりして、防潮堤が障壁として見えないような工夫をしたところもあります。
でも、そういった条件が揃わないところは、陸地と海を隔てる防潮堤を受け入れざるを得ませんでした。その場合でも、高所から展望ができる施設を設けて町から海が見えるようにしたり、防潮堤に絵を描いて賑わいを作り出そうとしたり、防潮堤の一部にガラス窓を設けたり、地域ごとにいろんな形で防潮堤と向き合っています。
なのでこの「消された防潮堤」に、「よりよい復興」の展示が、そもそも「よい」とはどういうことか、という問いを切り捨てたことが凝縮されているように感じるのです。
とはいえ、この限られた展示スペースと日数で、復興のすべてを説明するなんて無理なことです。
だから、より深く知るためには現地を訪ねてみてほしい、といった誘導があればいいのかなと思いました。そういった要素はないわけではないのですが、あくまでおまけみたいな感じで、ちょっと不十分だったような印象を受けました。
噴水ショー「アオと夜の虹のパレード」を予約スペースから
万博の名物となっているのが、夜に2回行われる噴水ショー「アオと夜の虹のパレード」です。
会場南側の「ウォータープラザ」で開催されますが、一時期、溜めてある水から基準値を超えるレジオネラ属菌が検出されたということで休止されていました。
噴水の演出は、ウォータープラザが見える場所ならどこからでも見ることができますが、中央のウォータースクリーンをメインに展開される物語をちゃんと見るためには予約しておく必要があります。
4月、5月に何度か予約は取っていたのですが、そのたびに、その時々でいろんな理由でキャンセルせざるを得ず、この日にようやく予約席で見ることができました。
……と言いたいのですが、実際は、予約席もすでにほとんど埋まっていて、隅っこの方しか残っておらず、そこからだとウォータースクリーンも斜めになってしまってよく見えません。
それだと何のために予約を取ったのかわからないので、座って見るのは諦めて、正面後方にある車いす席の後ろで、立ち見で見ることにしました。
「夜の虹」という、日中の虹以上にレアな現象があります。明るい月が出て、空気中に水分が豊富な時に見られることがあるそうです。それをテーマとした物語で、主人公のアオが夜の道を歩いていると不思議な生き物たちに出会い、いろいろなできごとがあって最後に夜の虹が現れる。アオは生き物たちと別れる時、「水と空気 海と空 ここにある ここにいる」といういのちの歌を歌い続けることを約束する。ざっと言えばそういったストーリーです。
ウォータースクリーンで描かれる映像がかなりクリアで、周囲の噴水の演出もとても迫力があります。






万博の開幕前、毎日行われる噴水ショーがあると知った時、「どうせ子供だましみたいなショーなんでしょ」と半分侮っていたのですが、それは大きな過ちでした。スクリーンや噴水の演出だけでも凄いのですが、生と死の狭間といった日本古来の生命観を織り交ぜた物語は意外と奥が深い*2。毎日大人気なのも納得のショーです。
なお、予約しないとスクリーンは見えませんが、噴水だけならウォータープラザの周囲から見ることもでき、特におすすめは大屋根リング南側の最上段から会場を見下ろす視点です。音楽やセリフは聞こえるので、それだけでも概ね物語は把握できます。




「One World, One Planet」のドローンショー。null2の音がなければいいのだけど
「アオと夜の虹のパレード」の直後に行われた「One World, One Planet」のドローンショー。これも万博名物の1つです。
「One World, One Planet.」はドローンショーだけではなく、会場内にいろいろな演出があるようなのですが、実質的にドローンショーとみなされることも多いと思います。
開幕日をはじめ、何度か見ていましたが、この日もせっかくなので見ていくことにしました。


ドローンショーを見るのに一番適しているのはやはりウォータープラザだろうと思います。ただ1つ難点があって、近くのシグネチャーパビリオン「null2」から時折聞こえてくる「ウォ~~ン」という不気味な音がかなり邪魔なのです。
ショーの間だけでも止めてくれたらいいのに、と思ったりもしますが、そこはまあクリエイターとしての意地というか、妥協してはいけない部分なのかもしれません。
5月20日のまとめ:イベントだけでも楽しめる万博
考えてみればこの日は、パビリオンは1つも見ていませんでした。夜からの短時間ということもありますが、期間限定のイベントを見て、夜の定番イベントを見て帰ってきただけでした。
万博に行ったらまずはパビリオンを見ないと、という風に考えがちですが、実はそれだけではなく、その日に開催されているイベントに着目してみるともっと楽しみの幅が広がっていくと思います。有名人が訪れるようなイベントは注目されることが多いのですが、それ以外の地味なイベントにも楽しめるものがたくさんあります。
この記事を書き終えたのは、訪問日から3か月近くたった8月12日ですが、今後は会期末に向けて来場者が増えていくと予想されています。パビリオンだけにこだわっていると、見るのも大変になってくるかもしれません。
この日に見た東日本大震災からの復興の展示は、違和感を持った部分もあって、それは記事の中で書きました。でも、これまで現地を訪ねた経験とは違う視点で整理された展示を見て、視野が広がったというところは確実にあります。それは有意義な学びだったと言えると思います。