
「未使用チケット数」として語られる数に全く意味がない
大阪・関西万博に関するマスメディアの記事について言及するのは久しぶりです。
開幕当初、万博について誤解を招きかねないような記事が多く、それに対して言及してきたりしていましたが、その後、万博会場での問題などについては来場者の反応も多く、一般的に大きな誤解を招いた状態で流布されることはなかったと認識しています。
会期末が近づき、すでに閉幕までの予約枠が埋まって来場予約が困難な状態になり、まだ使用されていないチケットはもう事実上使えなくなったという「未使用チケット」の問題が語られるようになってきました。
これについてはいくつもの問題点があるのですが、ここでは1点だけ、「根拠なき数字が一人歩きしている」という点について書きたいと思います。
特に典型的なのは産経の下記の記事です。
大阪・関西万博で、10月13日の閉幕までの来場予約枠がすべての時間帯で埋まったことが20日、分かった。購入されたものの未使用の入場券が、少なくとも140万枚ある。
(略)
万博の一般来場者数は18日時点で累計2003万7千人(速報値)となり、2千万人を突破した。一方で、入場券販売枚数は12日時点で累計約2142万枚となっていて、単純計算で約140万枚が使われていないことになる。
また、東京新聞は以下のように記述しています。
大阪・関西万博で、購入されたものの使用されていない入場券が130万枚超残っていることが22日、分かった。
(略)
万博協会は22日、入場券の販売枚数が2186万枚(19日時点)となったのに対し、一般来場者数は2053万人(20日時点)だったと発表。差し引くと130万枚超が使われていない計算になる。
この両者や、他の記事も含めて、数字の根拠になっているのは毎週月曜日に博覧会協会が発表している、来場者数の累計とチケット販売数の数字や、ほぼ毎日発表している前日の来場者数の速報値といった値です。
それを単純に引き算しているだけで、実際に未使用チケットが何枚あるかという数字ではありません。
産経の場合は、チケット販売数については博覧会協会が9月15日に公開した下記のページのデータがもとになっていると考えられます。また、来場者数については下記ページの累計来場者数に、その後の速報値を加算して9月18日時点の累計として算出していると考えられます。
東京新聞の場合は、博覧会協会が9月22日に公開した下記のページの記述をそのまま使用しているようです。
2025年9月20日(土)現在 累計来場者数 23,443,382人(うちAD証入場者数 2,916,899人)
という記述から、引き算すれば一般来場者数は20,526,483人となります。また、累計チケット販売数は
2025年9月19日(金)現在 累計チケット販売数 21,864,822枚
と記述されている通りです。
この累計チケット販売数から累計一般来場者数を引けば1,338,339となり、東京新聞が言う「130万枚超」という数字になります。
この数字になぜ根拠がないのかをまず説明します。
累計チケット販売数は、今後増加してもわずかだと見込まれます。なぜなら、現在は万博のチケットは来場日時を予約しないと買えないからで、最終日の10月13日まで予約枠がすべて埋まっている現状では販売できないからです。
一方、累計来場者数は今後も閉幕日まで増加し続けます。現在は1日20万人以上のペースで増加しているため、現時点で単純な引き算で140万枚と出たとしても、1週間で消えてなくなります。
1週間たって、累計チケット販売数から累計来場者数を引いてゼロやマイナスになったら、未使用チケットの問題は消え去り、それでめでたしめでたしなのでしょうか。そんなことでいちいちメディアが騒いでいるのでしょうか。
つまり、計算方法として全く間違っているのです。
未使用チケットの数を推定するには、少なくとも以下の2つが必要です。
- 最終の一般来場者数を根拠を持って推定すること
- 通期パスや夏パスといった、複数回使用可能なチケットが、実際何回使われるのかを推定すること
そういったこともせずに、全く根拠のない計算から導かれた数字を、「死にチケット」というインパクトのある表現まで用いて流布させる。これはもう虚偽の流布だと言わざるを得ません。多くのメディアがこうした言辞に手を染めているという事実に慄然となります。
なお、読売テレビは9月22日時点で
この「死に券」は少なくとも約113万枚あるとされていて
としていますが、その根拠は示されていません。
「未使用チケット数」の推計は可能なのか
どうせ雑な数字を出すなら、もう少しましな根拠に基づく数字を出していただきたいものです。
そういった計算が可能なのかを試してみました。
まず、算出する必要がある数字は2つです。
- 最終的な一般入場者数の累計
- 最終的なチケット販売数から想定されるチケット使用回数
販売されたチケットが全部使われたとして想定されるチケット使用回数から、累計入場者数を引けば、それが未使用チケットの数と推定することができます。
博覧会協会が9月22日に公表した数字から、推計を試してみることにします。
最終的な一般入場者数の推計
博覧会協会が発表しているのは「総来場者数」と「AD証入場者数」(関係者など、チケットを購入せずに入場している人数)のため、それを引き算した値が「一般入場者数」となります。具体的には下表の通りです。
| 来場者数 | AD証 入場者数 |
一般 入場者数 |
|
|---|---|---|---|
| 9月14日 | 235,280 | 19,068 | 216,212 |
| 9月15日 | 229,551 | 20,900 | 208,651 |
| 9月16日 | 233,900 | 20,283 | 213,617 |
| 9月17日 | 237,600 | 20,762 | 216,838 |
| 9月18日 | 240,449 | 20,561 | 219,888 |
| 9月19日 | 241,390 | 19,814 | 221,576 |
| 9月20日 | 240,671 | 20,363 | 220,308 |
この1週間、予約枠はほぼ満員の状態であったため、今後も閉幕日までこの傾向が持続するという推定は可能ではないかと思います。
つまり、この期間の一般来場者数の平均値である216,727人のペースで、今後の一般来場者数が増加していくものとします。
協会が発表している「開幕日(2025年4月13日)からの来場者数(累計)」では、累計来場者数23,443,382人、うちAD証入場者数が2,916,899人ですので、一般来場者数の9月20日時点の累計は20,526,483人となります。
ここから、最終の一般来場者数を推計することができます。
つまり、20,526,483(9/20時点の累計)+216,727(一日の一般来場者数)×23(閉幕日までの残り日数)=25,511,204 となり、約2,551万人という推計になります。
チケット使用回数の推計
次に、「販売したチケットがすべて使用された場合の使用回数」について考えてみます。
まず、チケット販売数は今後増えないものと仮定します。というのは、現在はチケットを購入する際は来場予約が必須となっていて、予約枠がない状態ではチケットを購入することができないためです。
つまり、協会から公表されている、9月19日時点の販売枚数がそのまま最終の数字になるものとします。
複数回使用可能な通期パス、夏パス、その他の1回のみ使用可能なチケットに分類すると、以下の枚数となります。
| 販売数 | |
|---|---|
| 通期パス | 404,393 |
| 夏パス | 277,566 |
| その他 | 21,182,863 |
| 合計 | 21,864,822 |
次に考えるべきは、通期パスや夏パスが何回使用されるのか、という想定です。
参考になる数字として、愛・地球博で通期パスに相当する「全期間入場券」の平均入場回数は11.05回とされています*1。
通期パスの使用回数は、この愛・地球博の統計をそのまま利用して11.05回とします。もちろん、両博覧会にはさまざまな差異があり、そのまま適用するのが正しいとは言えませんが、かといって、何か修正する根拠も持ち合わせていません。
そして、夏パスは利用可能期間が7月19日~8月31日の44日間、会期の4分の1に限られることから、使用回数は仮に3回と設定します。
これをもとに、「チケットが全て使われた場合の使用回数」を算出すると、下表の通り26,484,104、つまり約2,648万回となります。
| 販売数 | 使用回数 | 総使用回数 | |
|---|---|---|---|
| 通期パス | 404,393 | 11.05 | 4,468,543 |
| 夏パス | 277,566 | 3 | 832,698 |
| その他 | 21,182,863 | 1 | 21,182,863 |
| 合計 | 21,864,822 | 26,484,104 |
未使用チケット数の推計は約100万枚。愛・地球博と同程度
これまでの推定をもとにすると、2,648万-2,551万、つまり約97万枚が未使用チケットとなる可能性が考えられます。さまざまなブレも考えて、概ね100万枚となります。
なお、愛・地球博での未使用チケットは99万枚であり*2、数としては同程度。ただし、大阪・関西万博の方がチケットの販売枚数が多いため、比率としては低くなります。
この推計は9月23日時点のもので、今後の来場者の増加傾向や、通期パス・夏パスの使用回数について見直しがあれば最終的な推計も変わってきます。ただ、根拠となる計算方法は大きく間違ってはいないはずです。少なくとも、マスメディアが流布する何の根拠もない数字よりはマシだと思います。
こういった推計は、たとえいい加減でも個人ブログだから許されるという部分もあります。マスメディアがこのような仮定に仮定を重ねた数字を出すのは、誰か専門家が導いたものでもないとなかなか難しいでしょう。
また、未使用チケットの状況は博覧会協会が調べれば出すことはできます。9月22日に大阪府の吉村知事が「数字を把握し、情報を公開することが重要」「協会に問い合わせている」と述べています。
しかし、合理的な推計が難しいとか、博覧会協会が情報を出さないからといって、根拠のない計算方法で導いた根拠のない数字を、見出しに大きく掲げたりして一人歩きさせていいということにはなりません。
前からメディアに関する記事では繰り返し書いていますが、マスメディアの根幹は、取材した事実に基づく報道であり、それこそがSNSなどで流布されるデマに対抗する唯一の手段です。マスメディアが進んで根拠のない数字を流布させるようになったら、その役割は果たせません。
開幕前、万博はまっとうな批判だけではなく、デマも暴論も何もかもごちゃまぜにした激しいネガティブキャンペーンに晒されました。そして閉幕が迫った今、再び万博に対するネガティブな論調が顔をもたげつつあり、この未使用チケットに関する問題もそうですが、一部は暴論化する兆しを見せています。
この万博が残すことになる成果と課題は何なのか。2年後には横浜で国際園芸博覧会「GREEN×EXPO」が開催されます。事実に基づく冷静な検証を行い、次の博覧会へ活かせることを願っています。
追記:9月29日公表データによる推計
9月29日、博覧会協会から最新の累計入場者数、累計チケット販売数が公表されました。
これをもとに本文と同様の推計を試みたところ、下記の通りになりました。
- 9月27日現在の累計入場者数(一般):22,072,717人
- 9月21日~27日の1日あたり一般来場者数の平均値:220,891人
- 10月13日までの累計入場者数(一般)の推計(A):25,606,973人
- 9月19日から9月26日までのチケット販売数の増加:154,565枚
(すべて1回券のため、この枚数分総使用回数が増える) - 9月26日時点のチケットの総使用回数の推計(B):26,638,669回
- 推定される未使用チケット数(B-A):1,031,696枚
なお、9月27日より始まった、未使用チケットの当日券への引き換えによる未使用チケット数の減少についてはこの数には含んでいません。
ちなみに、この数字をもとにマスメディアが行っていた計算(累計チケット販売数-累計の一般入場者数)を実行すると、累計チケット販売数が22,019,387枚のため、未使用チケットの枚数は-53,330枚となります。
いかにでたらめなことを行っていたかがお分かりいただけると思います。