君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

ひたちBRTに乗ってみた (1)鉄道転換型BRT概論&ひたちBRTの設備を見る

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大甕駅西口に到着するひたちBRT

去年(2019年)秋ごろから、鉄道からBRT(Bus Rapid Transitバス高速輸送システム)に転換されたJR東日本気仙沼線大船渡線を重点的に訪ねているのですが、実はその関連で、他のBRT路線のことも気になっていたりします。

そんなわけで、今年(2020年)12月に、茨城県日立市にある、日立電鉄廃線跡を活用したBRT「ひたちBRT」を訪ねてきましたので、その様子をお伝えします。

現地の様子に入る前に、BRTに関する概論としていくつかのことを書いておきたいと思います。

路線バス型BRTと鉄道転換型BRT

BRT(バス高速輸送システム)は、以下に挙げる様々な手法により、路線バスの速達化、定時性向上や、サービスの高度化を図るシステムを指します。

  • 路線バスよりもバス停を限定する
  • 専用道や専用レーンを設ける
  • 交差点においてバス優先システムを導入する
  • バスロケーションシステムによる運行管理、および利用者への情報提供
  • 連接バスなどの輸送力増強
  • 停留所での待合室、切符売り場などの整備
  • 低床式バスの導入

もともと、BRTは路線バスを高機能化するものとして導入された語だったはずで、名古屋市の基幹バスや新潟市萬代橋ライン、東京都の東京BRTなどがその代表的な例ですが、2010年前後から、それとは別の動きが出てきました。

それが、鉄道路線の設備をバス用に転換して専用道化する、というものです。

茨城県石岡市が、鹿島鉄道廃線跡を鉄道代替バスの専用道として整備し、供用を開始したのが2010年。これが、現代的な鉄道転換型BRTの最初の事例といえます。

同じ2010年、日立電鉄廃線跡を譲り受けた日立市が新交通導入計画を取りまとめました。それが「ひたちBRT」として部分開業したのが2013年でした。

そうした動きの中、2011年に東日本大震災が発生。被災した鉄道各線のうち、JR気仙沼線大船渡線の沿岸部の区間はBRTとして仮復旧(気仙沼線は2012年、大船渡線は2013年)し、その後、沿線自治体との協議を経て本復旧となりました。鉄道線としてはいずれも2020年4月1日をもって廃線となっています。

この2010年前後に相次いで発生した3つの事例は鉄道転換型のBRTであり、専用道整備を核としたシステムであることが特徴です。JR九州日田彦山線の一部区間がBRT化されることになりましたが、これが4例目ということになります。

なお、鉄道転換型の専用道があるバス路線として知られるのはJRバス関東の白棚線(白河駅新白河駅磐城棚倉駅を経由)ですが、専用道がある以外はBRTとしてのシステム的な特徴はなく、現代型のBRT路線とは異なる面があります。

他にも、鉄道未成線をバス専用道として利用したもの*1、鉄道に代わる手段としてバス専用道を用意したもの*2がありますが、これらをBRTと呼ぶのはちょっと違和感があります。が、どう違和感があるのかと言われるとうまく説明できない(そもそもBRTの定義自体があいまいな面がありますが)ので、その辺はまた整理が必要かなと思っています。

ひたちBRTと気仙沼線大船渡線BRTの違い

鉄道転換型BRTの中でも、ひたちBRT(かしてつバスも含む)とJR東日本のBRT路線とは明確に異なる点があります。

それは、前者が鉄道事業者の撤退後、自治体が新たな交通政策としてBRT専用道を整備し、鉄道とは別のバス事業者が運行を行っているのに対し、後者は鉄道事業者が一貫して専用道の整備、バス運行を行い(業務は地元バス会社に委託)、鉄道と一体となったネットワークを形成していることにあります。

今回、ひたちBRTを訪ねたのは、その両者の違いを現地で見てみたいというのが1つの目的でした。また、自動運転の実証実験として乗客を乗せての運行も行っており、それを体験してみたいと思っていました。

さらに、気仙沼線大船渡線において、一般的にあまり見ない「バス風景写真」を撮るという試みを続けていますが、それを他のバス路線に広げてみたいとも思っていました。

そういった様々な思惑をもって、ひたちBRTが発着するJR常磐線の大甕(おおみか)駅で下車しました。

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JR大甕駅西口。日立電鉄の駅跡が再整備された

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BRTのりば。鮮やかな青と、斜めにデザインされた「BRT」の文字が目を引く

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到着したひたちBRTの車両。カラーリングや絵柄は様々なものがありますが、曲線を多用したキャッチーなデザインが特徴で、市内交通のシンボルとして活かしていきたいという意気込みを感じます。

日立商業高校をバックに

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ひたちBRTのルート図と運賃表。茨城交通Webサイト日立地区・路線バス時刻表)より

ひたちBRTの現在のルート図は上記の通りです。6番の河原子(BRT)から19番の南部図書館までが廃線跡を利用した専用道となっています。停留所名に「(BRT)」と付いている河原子、大沼、水木、そして大甕駅と南部図書館(旧久慈浜駅)が、日立電鉄時代に駅があった場所になります。

かつての日立電鉄線は、当時の久慈浜駅から西へ、そして北西に進んでいましたが、BRTは一般道に出て、道の駅日立おさかなセンターを目指す経路となっています。

また、北側は河原子の先に桜川・鮎川の2駅がありましたが、常磐線とは接続していませんでした。現在は第2期工事まで完成していますが、第3期では、旧鮎川駅から先、日立駅まで延伸することを目指しているようです。

最初に目指したのは、事前に調べていい写真が撮れそうな気がしたどうのいり公園(16番)でした。

なお、ひたちBRTはSuicaなどの交通系ICカードは使えません。「でんてつハイカード」というローカルなICカードが使えますが、買ったところで後始末に困るだけなので、都度現金で支払っていくことにします。

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背後に見えるのは日立商業高校。ひたちBRTの曲線的なデザインは、ここの高校生の原案がもとになっているそうです。

BRTの後ろ、高校の真下を常磐線が通っているので、タイミングが合えば両者を一緒に撮ることもできそうです。

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ひたちBRTの専用道は一車線です。どうのいり公園停留所で交換するダイヤになっていました。

BRTの設備を見て、JRのBRT路線と比べてみる

どうのいり公園付近で、BRTの設備をいろいろと見てみました。

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上記の交換用に使う信号機。青と赤が点灯するだけの非常にシンプルなものです。

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気仙沼線BRTの待避所(南気仙沼駅)

JRのBRT路線で同じ機能を持つ信号機。上空にあるので設置するための柱があり(場所によっては目線の高さに置かれているものもあります)、「感応式信号 [感知中]」の表示もあって結構ごちゃごちゃしているのです。

これに比べるとひたちBRTの信号機はかなりシンプルです。

なお、ひたちBRTの交換用の信号は青が基本のようです。なので、赤にならない限りは一時停止は不要です。基本が赤で、その前で必ず一旦停止し、感応式信号が青になるのを待って進むJRとは動作が異なっています。

また、JRの専用道には必ず反射式の誘導灯があるのですが、それがひたちBRTにはありません。これもまた見た目の印象に大きく影響する部分です。

津波で被災して街灯の整備も充分でないところを走るJRと、市街地の中を走るので明るさに不足がないひたちBRTの違いなのかもしれません。

こういった違いがあって、ひたちBRTの方がずいぶんスッキリしている感じがします。

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どうのいり公園停留所の全景。片側には屋根付きのベンチ、もう片側は乗り場だけという構成です。

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屋根付きの乗り場。JRのように風除けができる待合室はないのですが、停留所は短い間隔で細かく設置されているし、運行間隔は最長でも平日20分間隔、休日30分間隔なので、停留所に来て長時間バスを待つということをそもそも想定していないのでしょう。

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JR線と比べて、性格の違いがよく出ているのが、専用道に歩道が併設されている点。JR線はあくまでJRが自社用のバス専用道を作っているだけなので、歩道と一体になって整備することはありません。一方、ひたちBRTの専用道は日立市が交通政策として作るものですから、専用道だけではなく、幅広い観点を含めて整備することができます。

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専用道沿いの歩道を歩いていくと、数分で次の日立商業高校停留所へ。先ほどのどうのいり公園と同じ構造ですが、ここは交換可能であっても信号機がありません。JR線でも待避所には信号機があったりなかったりしますが、同じような使い分けなのかどうかは、もう少し深掘りしてみないとなんとも言えません。

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さらに歩道を進み、次の日立商業下停留所付近の交差点へ。

一般道との交差点は、JR線と同様、専用道の方を遮断していましたが、動作は少し違っていました。

JR線では、バスが近づくと事前に遮断棒が開き、減速はするものの停車せずに通過できます。信号機も、基本的にはバスが到達する前に青になるようになっています(ただし、一部そうではないところもあります)。

一方、ひたちBRTでは一般道との交差部分が感応式信号となっており、一旦停止して信号が変わるのと遮断棒が開くのを待って発車します。バス同士の交換とは対照的に、この部分で一時停止が必要になっています。

なお、交差点に信号機がない場合は、停止ギリギリまで速度を落とし、遮断棒が開くのを待って、左右の安全を確認して通過していきます。

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歩道は道幅が広いので、自転車も通れるのではないかと思っていましたが、明確に乗り入れが禁止されていました。

自転車は入ってこないし線形が良く歩きやすいので、ランニングやウオーキングに利用している方が結構おられました。

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さらに進んで次の南部図書館停留所へ。ここでは本のアイコンですが、先ほどの日立商業高校では校舎がアイコン化されていました。このように付近にある施設をアイコンに採り入れることで、停留所ごとの区別をつけやすくしているのだと思います。

次回は南部図書館の展示で日立電鉄の足跡を知り、そして自動運転バスの実証運行を体験します。

a-train.hateblo.jp

*1:一例として、JR五条駅から南に延びる、五新線の未成線を利用したバス路線があります。

*2:一例として、南海高野山駅と女人堂の間のバス専用道があります。