君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

近鉄の名阪特急向け新型特急車「ひのとり」乗車記

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近鉄名古屋駅に停車中の特急「ひのとり」

10月初旬、大阪に用事があったついでに、近鉄の新型特急車「ひのとり」に乗る機会がありましたので、乗車記をお届けします。

「ひのとり」とは

「ひのとり」は、今年(2020年)3月にデビューした車両で、大阪難波近鉄名古屋間を結ぶ名阪特急で使用されています*1

名阪特急には、ファンの間では「甲特急」とも呼ばれる停車駅の少ない速達タイプと、「乙特急」とも呼ばれる主要駅に停車していく特急があります。

これまで、甲特急を担ってきたのが「アーバンライナー*2と呼ばれる車両で、乙特急は汎用型の特急車でした。

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近鉄名古屋駅を発車するアーバンライナー

1988年に登場したアーバンライナーは一度リニューアルされたものの、登場から30年が経過していました。
そこで、サービスの刷新のために登場したのが「ひのとり」となります。

「ひのとり」は3月以降、順次増備されており、置き換えられたアーバンライナーは乙特急や、名古屋~伊勢志摩間の特急の方に転用されているようです。

この日は、近鉄名古屋駅8:20発の大阪難波行きに乗車しましたが、その前に発車した8:00発の大阪難波行き特急、8:10発の賢島行き特急ともアーバンライナーでした。

なお、「ひのとり」は通常の特急料金に追加して、レギュラー車両であっても特別車両料金200円が必要となります。

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近鉄名古屋駅に入線してくるひのとり。

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登場後半年がたったとはいえ、一般的にはまだまだ物珍しい車両です。列車を撮影したり、記念撮影をする方もみられました。

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近鉄特急の伝統的な色はオレンジ系の色で、それは白を基調としたアーバンライナーの帯にも踏襲されていたのですが、がらっと変わって鮮やかながら深みのある赤を基調としたデザインが目を引きます。

レギュラー車両でも妥協しないバックシェル構造

「ひのとり」の大きな特徴として、レギュラーシートの乗り心地の向上があります。

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座席の背後にバックシェルを設置。特急車でよく問題になる「どこまでリクライニングしていいのか問題」を気にする必要がありません。

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バックシェルにテーブルが備え付けられており、引き出すとこんな感じ。かなり大きなサイズです。

座席の背面に取り付けられている一般的なテーブルでは、出し入れの時に前の人を気にすることもありますが、これであれば気にする必要もありません。

バックシェルを付けた分、前後の座席間隔は広くとられていて、新幹線のグリーン車と同等レベルだそうです。

その他、座席下には大きめのフットレストがあり、脇のペダルを踏むことで高さを自由に調節できます。

リクライニング構造には、アーバンライナーのリニューアルで登場した「ゆりかご型シート」を踏襲。背面を後ろに傾けると同時に、座面のお尻の部分が沈み込み、包み込まれるような座り心地になります。

普段、リクライニングをフルにすることはないのですが、バックシェルがあるおかげで、後ろの人を気にせず、自分の座り心地を最優先にして調整できるのは素晴らしいと思いました。とてもゆったりと車内での時間を過ごすことができました。

最近の特急車では標準装備と言える全席電源コンセントも対応。ひじ掛けの下にコンセントが設けられています。

ヘッドレストに関しては、JR東日本の特急車のような可動式ではありません。ただ、背面が十分に高いので頭が突き出てしまうようなことはなく、ほどよい柔らかさで包み込むような感覚で、特に不満はありませんでした。

車内設備

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車端部のモニターは2枚横並びです。左側に情報を出しつつ、右側には前面展望を映し出すというような使い方もされています。

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多言語対応としては、左側で通常表示とひらがな表示、右側で他言語を表示する形になっています。また、案内文やニュースなどのスクロールは2画面に渡って表示されます。

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停車駅の前には乗り継ぎ情報が表示されます。

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別方向の乗り継ぎだけではなく、進行方向でも普通列車などに乗り換えることもありますので、そういった案内にも対応しています。

ただ、この案内は見過ごす人が多くて実用上はあまり役に立たないのではないか、という気がします。

というのは、駅の到着前には案内放送が流れ、上の画像のように「あと5分程で~」というような表示もされるのですが、乗り継ぎ案内はそれ以前にしか表示されないためです。モニターを常時見ている人などほとんどいないと思いますので、たまたま見たら流れていた、という感じでしか見ることができないと思います。

私が乗車した列車は、名古屋を出ると津・大和八木・鶴橋の順に停車したのですが、津ではこの案内に気づかず、大和八木の手前でたまたま目にして撮ろうと思ったのですが、待っていても2回目の表示はなく、鶴橋の到着前に注意して見ていたらようやく撮ることができた、という感じでした。

おそらくこの案内はアーバンライナーと共通ではないかと思いますが(もしかしたら他の特急車でもやっているかも)、実用性の面では課題があるような気がしました。

大和八木で隣の席の方が下車して自由に動けるようになったので、少し車内を見て回ります。

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各車両にはロッカーがあります。この写真は1号車で撮影したので番号が11からになっていますが、2号車なら21から、3号車から31からになります。

交通系ICカードでロックするタイプと、物理鍵のタイプがあるようです。どちらも無料です。

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3号車には飲み物の自動販売機が置かれています。

車内を巡回する販売はありませんが、駅で買い忘れて、あるいは買う時間がなくて寂しい思いをする必要はありません。

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1号車・6号車の端には、スナックと挽きたてコーヒーの販売機があります。

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ただ、残念ながら1号車の挽きたてコーヒーは販売中止でした。ウイルス感染対策とも書かれていないので、一時的な故障だったのでしょうか。

乗車しての感想

名阪特急は近鉄の看板列車の1つですが、JRの東海道新幹線との厳しい競合にさらされています。

新幹線開業直後には壊滅状態に陥ったものの、国鉄の相次ぐ運賃値上げによって息を吹き返したと言われています。

大阪方の停車駅が新大阪と難波・上本町・鶴橋という違いがあって、大阪南部からは難波や鶴橋の方が使い勝手がいいこともありますが、ある時は運賃・料金の安さをアピールし、ある時は「2時間あるから、ちょうどいい」というキャッチフレーズで車内サービスを充実させたり、あの手この手で新幹線との差別化を図ってきました。

一方で、大阪では「なにわ筋線」の建設計画が進んでおり、難波から南に路線が延びている南海電鉄が新大阪まで直通するようになるという話も出ているので、そうなると立地上の差別化要素がひとつ失われることになります。

そうした中での新型特急車。全席バックシェル装備、グリーン車並みのシートピッチとしたことで座席数は大幅に減り*3、レギュラー車両でも追加料金が必要となって新幹線との価格差は小さくなりましたが、旺盛な需要に応えるために多くの座席数を確保せざるを得ない東海道新幹線では難しいサービスとして、デメリットは覚悟のうえで導入したという感があります。

実際、品川から名古屋までは東海道新幹線の普通車を利用しましたが、乗り心地のあまりの差に驚きました。名古屋~大阪間は新幹線の「のぞみ」でも50分ほどかかりますので、時間に余裕がある場合は、この乗り心地の差だけで近鉄を選ぶ理由になり得ると思います。

今はまだ、新型コロナウイルスの影響で移動需要が落ち込んでいるので、座席数よりも快適性を優先した戦略がどう出るか、判断するのは早計というものでしょう。

「ひのとり」の大きな特徴はレギュラーシートにあると思いますので、とりあえずレギュラーシートを利用してみましたが、また機会があればプレミアムシートも乗ってみたいと考えています。

*1:ほかには、大阪難波~奈良間でも乗車できる列車があります。

*2:厳密には「アーバンライナーnext」「アーバンライナーplus」がありますが、両者とも基本的には同種の車両です。

*3:定員はアーバンライナー6両編成で300人強に対して、ひのとり6両編成で239人。