車内に坪庭を配置するなどの斬新な内装、にもかかわらず料金不要ということで話題となった、今年デビューした阪急京都線の「京とれいん 雅洛(がらく)」ですが、これは京とれいんとしては2編成目になり、初代となる「京とれいん」は2011年から運行されています。
これまでは京とれいんが休日ダイヤで日中2時間間隔の運転だったものが、「京とれいん 雅洛」が追加されたことであわせて1時間間隔の運転となり、大きく存在感が向上したと言えるかと思います。
今回、せっかくなので両方の「京とれいん」に乗車しました。
両者の比較と乗車記を、それぞれ書いていきたいと思います。
「京とれいん 雅洛」については下記記事に書きましたのでご覧ください。
初代「京とれいん」について
上述の通り、2011年5月に運転を開始した編成。
特急列車の運用から引退したばかりの2ドア・転換クロスシート車の6300系電車を改造し、京都観光向けの列車として仕立て上げたものです。
上のページが「嵐山なび」であるように嵐山観光を強く意識していて、車内放送で嵐山の観光案内が流れたりもします。まだ、インバウンドが活況を呈して京都がオーバーツーリズムな状況になる前の話で、何を手掛かりに京都観光を盛り上げていったらいいのか……というような時期でした。
列車は6両編成で、基本的な運転区間は梅田~河原町ですが、展開次第では嵐山線に乗り入れることも想定しているのではないかと思います。
1・2号車(梅田方面側)は「蘭の花散らし」という華やかなシートにかけ替えられた座席。
特急として現役時代の6300系をご存知の方なら、車内のつくり自体は変わっておらず、シートやヘッドカバー、ひじ掛け、壁面などの色や柄を変えただけということに気づくかと思います。もともと、2ドア転換クロスシートという仕様自体がきわめて観光向けなので、そこは大きく変更する必要はない、ということなのでしょう。
6300系の中には嵐山線に転用されたものもありますが、それらのクロスシートは9300系と同様のものに置き換えられたので、この形のクロスシートが残っている唯一の編成となっています。(ちゃんと調べてないですがそのはずです)
5・6号車(河原町方面側)は同じ構成で、「麻の葉」のイメージの落ち着きと鮮やかさがあるシート。
大きく変わったのは3・4号車。ボックスシート(4人用+2人用)の配置となっています。「京とれいん 雅洛」の1・6号車がこれに近いイメージ。ゆるやかな曲線を取り入れたボックスごとの仕切りが、柔らかく京都らしい雰囲気を演出しています。最近ではこうした曲線を取り入れた車内デザインも珍しくなくなりましたが、当時としてはまだ真新しいものでした。
3・4号車の出入口部。格子を利用して京町家風にデザインされた、当時としては斬新だったエントランスが特徴的です。
車両側面。こがね色であしらわれたロゴや扇の絵などがおなじみのマルーンともとてもマッチし、阪急電車の新しいデザインを生み出していました。
「雅洛」と比較してのメリットと注意事項は以下の面があります。
- 転換クロスシート装備。座席を転換させることで用途に合わせて柔軟に対応できる余地が広い(「雅洛」はバラエティに富んだ座席が用意されているが、柔軟性は低い)。
- 京阪間ノンストップ特急として活躍した6300系の雰囲気が、今もあまり変わらずに残されている。
- 「雅洛」にある前方展望サービスは利用不可。ただし無料Wi-Fiは利用可能。
- ドア配置の関係上、ホームドアに対応できないため、設置済みの十三駅には停車しない「快速特急A」として運転。
今は猫も杓子も観光列車ですが、爆発的な拡大の契機となったのは、2011年に九州新幹線が全線開業し、それに伴ってJR九州が「基幹路線の都市間特急」から「新幹線の二次交通となる観光特急」への転換を図り、次々と観光特急を投入したことにあります。
そういった背景を考えると、今の観光列車全盛の時代の先駆けとなる列車であったと言えるかと思います。
実際に乗ってみた
「京とれいん」に乗車するのは確か3度目でしょうか。初めてではないし、阪急京都線はそれこそ庭と言いたいぐらい乗りまくった路線です。
ただ、その時の記憶を持ちつつも、今回は訪問者としての視点で乗ってみたいと思っていました。
なお、紹介するのは河原町方面へ向かって左側の車窓になります。「京とれいん 雅洛」の3・4号車にある窓向き座席と同じ向きなので、参考になる面もあるかと思います。
乗車したのは上の紹介のうち「麻の葉」シートの5号車。綺麗に手入れされており、パッと見てももう40年以上走っている車両とはとても思えません。
懐かしい遮光用の鎧戸。これは新しい車両にはないし、一般車両でもリニューアルされたりして数を減らしつつあるようです。
窓の下に収納された鎧戸を上までしっかり上げて、カチッと音が鳴るように止めないといけないのですが、それを知らずにひっかかりが甘いまま止めてしまい、乗車中にいきなりズドーンと落ちてくるまでがお約束。
何か古さを感じるところはないかと見まわしてみました。
クロスシートの転換機構。さすがに使い込まれた年月を感じる、シブい輝きを放っていました。
列車は定刻通り梅田駅を発車します。5号車の乗車率でいえばまだまだ座席に余裕があります。
次の中津駅で、1分前に発車していた宝塚線の普通と並走。最近導入され、阪神と共通デザインということでも話題になったラッピング列車「SDGsトレイン」でした。
並走状態のまま、淀川を渡る橋梁へ突入。神戸線の列車は見えませんが(ダイヤ的には見えてもおかしくはないのですが)有名な「三線同時発車」を彷彿とさせます。
京都線が宝塚線・神戸線より高い位置に建設されているのは、もともと両線と比べて後の時代に建設されたということもありますが、本来は水防上こちらの高さが望ましく、宝塚線・神戸線も架け替えの時にはこの高さに架け替える想定だと聞いたことがあります。
淀川を渡るとすぐに、6線いっせいに高架から地上へと降りて十三駅へ。この列車は十三では客扱いはしませんが、短時間の運転停車をします。
初代「京とれいん」は今は「快速特急A」という種別で運転されており、従来の「快速特急」と異なるのは十三に停車しないということ。
ホームドアの設置によって、他の車両とドアの配置が大きく異なる「京とれいん」は客扱いができなくなったのでした。
十三を出たところで、宝塚線の普通とはお別れです。
十三の次の南方駅を過ぎると、両側で高架化工事が進んでいます。
淡路駅で右側から合流する千里線(天神橋筋六丁目方面)。今は地上を走っていて平面交差で合流しますが、2層の高架になるらしく、付近の建物と比べると相当巨大な構造物が見えてきています。
淡路に停車すると乗客が増え、概ね座席が埋まったぐらいの感じで京都へ向かいます。次の停車駅は嵐山線との乗り換え駅となる桂駅です。
淡路を出て、左側に分かれていく千里線(北千里方面)の線路。その先に(京都線もくぐるのですが)JRおおさか東線の築堤が見えます。
正雀駅を通過。左側に巨大な車庫があります。
南茨木駅付近。川を渡る際などに建物が途切れると、北摂の山々の眺望も楽しめます。
目の前の家が関係あるかという話はさておき、ブルーシートを見て、1年前に大阪北部地震があったことを思い出しました。全体の被害規模は比較的大きくはなかったものの、ブロック塀の安全性の問題、朝の通勤時間帯の地震への対処、といったいろいろな教訓を残した地震でした。
あの直後の夏の帰省の際には、ブルーシートをかけた家が車窓からも多数見えたのですが、もうほとんど見えなくなっていて、今いくつか見えるブルーシートも、地震の影響なのかどうか正直よくわからない、というぐらいになっています。
少し先に見えるのが、巨大な板チョコ状になった明治の工場の看板。すぐ手前にはJR京都線が走っていて、そちらからだともっと堪能できます。
高槻市駅の手前。先に見えるJR線を何者かが大阪方面へ走っていきます。小さくてよくわかりませんがサンダーバードでしょうか?
高槻市駅を通過すると、以前はなかったと思う集客施設らしきものが見えてきました。
高槻市と上牧(かんまき)の間。北側からJR京都線と名神高速が近づいてきます。
南側からは東海道新幹線も近づいてきて、この先上牧・水無瀬・大山崎の各駅の間は新幹線との並走区間になります。「新幹線の線路で最初に営業運転したのは阪急電車」という逸話で有名な場所ですね。
要するに、この辺は新幹線・名神高速・JR京都線・阪急京都線が集まり、すぐ南の淀川の対岸には京阪電車が走るという、主要幹線が密集した場所なわけです。かつて、明智光秀と豊臣秀吉の合戦があったのがこの山崎の地でしたが、合戦場となった理由もわかろうというものです。
大山崎駅手前で、大阪方面へ走り去る223系と思われる編成。ダイヤ的には米原発姫路行き新快速(休日ダイヤでは3441M)のようです。
阪急京都線で最も新しい駅、西山天王山付近。京都縦貫自動車道と交差する付近に駅が設けられ、高速道路上のバス停と一体的に整備されたのが特徴です。
洛西口駅付近。この付近は高架化されましたが、周辺の住宅は低層が多いため、西山がよく見渡せます。車窓の見どころの1つでしょうか。
桂駅に到着。正雀に続いて京都線の2つ目の車庫があります。一番車庫側の乗り場は数字ではなく「C号線」と呼ばれていますが、これは、もともと車庫内で「C号線」と呼ばれていた線を、駅の改築に合わせてホームに転用したためだそうです。
この駅では嵐山方面に向かう人、京都市街地へ向かう人などで多くの乗降がありました。
北側へ分岐する嵐山線。架線柱のつくりなど、どうみても複線にしか見えませんが実は単線で、それは戦時中に線路を供出したため、というのはご存知の方も多いかと思います。
西京極陸上競技場と野球場。この目の前に西京極駅があり、利便性は抜群です。
ほどなくして地下線へ入り、西院・大宮を通過後、烏丸・河原町と停車して京とれいんの旅は終わりとなります。
見慣れた風景といえばそれまでではあるのですが、訪問客目線でいうと宝塚線・神戸線との並走、北摂や西山の山並み、JR京都線や東海道新幹線との離合など見どころが多く、思ったより楽しめる車窓だということに改めて気づかされた有意義な乗車でした。
おまけ
河原町駅のベンチ。以前は平凡な水色かなにかのベンチだった記憶がありますが、こうして京都らしいデザインのものに交換されたようです。
本来、車番表示をしている側面中央下部はつぶし、隅っこに改めて車番を配置しているあたりに芸の細かさを感じました。