君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

気仙沼線BRT・大船渡線BRTを追った半年間 (4)交通体系としての鉄道とバスの壁

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寒い朝、何度となく乗車した気仙沼線BRTの柳津行き初発便。

以前は、鉄道は鉄道、バスはバス、それぞれ別のものだと思っていました。

初めて気仙沼線BRTに乗った時、「JR東日本は本気でBRT(Bus Rapid Transitバス高速輸送システム)という輸送サービスを作り上げようとしている」と気付いたことは下記の記事で書きました。

a-train.hateblo.jp

それと同時に、鉄道とバスの特徴を組み合わせたようなBRTに乗車した経験から、その2つを区別して考える固定観念も大きく揺らいだのでした。

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一般道にあった頃の南気仙沼駅を発車した気仙沼線BRTのバス

上の写真のように、町中の一般道を走行する様は路線バスそのままです。

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専用道を走行するBRT。左は細浦~大船渡丸森間、右は不動の沢気仙沼

一方で、もともと鉄道用に敷設された専用道を通る時は、単に線路が道路に、気動車がバスに変わっただけで、車窓は鉄道から見える車窓そのものでした。

「もともと鉄道が通っていたんだから当たり前じゃないか」と言われそうですが、「バスから見える鉄道の車窓」というのがとても興味深く、それ以来、鉄道とバスの境ってなんなんだろう? ということを考えるようになりました。

鉄道は地図に載る。BRTは載らない。

鉄道路線は基本的に地図に載りますが、路線バスは載りません。鉄道を受け継いだ気仙沼線BRT、大船渡線BRTも、地図によっては専用道が道路として描かれていますが、路線としてわかる形で載っているものはほとんどありません。

まず最初に、個人的に作成した現在の気仙沼駅付近のルート図を貼っておきます。

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気仙沼駅付近の鉄道とBRTのルート図(2020年3月14日時点)

線やマークの色分けは以下の通りです。

つまり、JR線として運行されている系統が付近にこれだけあるわけです。

ところが、このルート図のベースになっているGoogleマップはこんな感じです。

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Googleマップ気仙沼駅付近の地図

鉄道ははっきりとわかりますが、専用道が道路として描かれてはいるものの、一般の道路に埋もれており、それがBRT路線であることは読み取ることができません*1

他のサービスも少し見てみました。

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Yahoo!地図の気仙沼駅付近の地図

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Navitime気仙沼駅付近の地図

Yahoo!地図やNavitimeの地図では、専用道の道路すら描かれておらず、駅の位置のみが表示されています。いずれも、かなり拡大すれば専用道も見えるのですが、何にせよ、必ず太い線で描かれる鉄道(特にJR線)の存在感とは比べ物になりません*2

単に鉄道がそのままバスに変わっただけで、これほどまでに扱いが変わるわけです。

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気仙沼駅を出発する気仙沼線BRT本吉行き。鉄道とBRTの地図の扱いの差は大きい

線として描かれるべきは鉄道だけなのか、という考え方

鉄道の存続が問題になる時、廃止に反対する理由の1つとして、「鉄道がなくなると観光客が来なくなる」「鉄道がなくなるとこの地域への線が消えてしまう」というものがあります。

それは、この状況を見れば納得できる面があります。

気仙沼線BRT・大船渡線BRTは、JRが地元の要望も踏まえて、鉄道に極力近い形で導入されました。事業主体は引き続きJR東日本であること、賃率が鉄道と同等*3に設定されていること、ルートが大きく変わっている大船渡線BRT(特に鹿折唐桑陸前高田間)においても鉄道時代のルートを踏襲した運賃設定になっていること、各種企画きっぷが鉄道と同様に使えること、そして「駅」という呼称を残していること*4などです。

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鉄道駅を模して再建された陸前高田駅。みどりの窓口も維持されている

JR東日本の路線図にはBRTも鉄道と同様に掲載されています。その意向が強く反映されると思われるJR時刻表でも同様で、柳津~気仙沼~盛間の鉄道の廃線後に発行された2020年5月号のさくいん地図では、JR線に幹線・地方交通線に加えて「BRT線」の種別が追加され、鉄道同様に表記されています。

JRがそれだけ努力していても、一般的な地図などでは、どうしても「鉄道とバスの壁」はまだ高くそびえているのです。

バス路線にも様々な種類があるので一律に扱うことはできませんが、概ね以下のような条件を満たす路線バス系統は、鉄道と同様にルートを地図に反映すべきではないか、と考えるようになりました。

  • 駅で鉄道と乗り継ぐことができる
  • 鉄道駅と駅から離れた町を結ぶ、隣接する町同士を結ぶ、もしくは町と郊外を結ぶなど、一般的な鉄道に近い性格を持っている
    (近距離を網状もしくは放射状にカバーする系統、市内循環系統などは除外)
  • ターミナルに営業所があり、乗車券などを購入できる

BRTではないですが、参考となる事例として、北海道夕張市が選択した「攻めの廃線」の例もあります。廃止となった石勝線(夕張支線 新夕張~夕張間)の代わりに並行路線バスを基幹路線として位置づけ、ターミナルや周辺の交通手段を再構築した事例です。これによって夕張への「線が消える」としたら、それも何かおかしいように思います。

また、鉄道の廃線とは無関係ですが、よく鉄道旅行のテクニックとして紹介されるバスによるショートカットについても、当該路線は地域交通体系の一部として扱うべきではないかと思います*5

もちろん、現実的には掲載スペースや可読性の問題、対象となるバス路線の絞り込みなど、いろいろな課題は考えられます。

しかし、遅かれ早かれ、過疎化が進む地域での鉄道の縮小は避けられない道です。その中で、鉄道とバスという輸送手段の違いだけを理由に、扱いに著しい差を設ける合理性はもはやないのではないかと考えます。

おそらく、気仙沼線大船渡線代替バスが一般的な鉄道代替バスであれば、こうした考えに至ることはなかったでしょう。鉄道と路線バスの境に位置するようなBRTでの経験があったからこそ、得られた気づきだと感じています。

*1:南気仙沼鹿折唐桑の位置など情報が古い、という点はここではとりあえず無視します。

*2:Wikipedia「気仙沼線・大船渡線BRT」の項によれば、iOSマップでは鉄道と同様の線で描かれていると記載されていますが、iOSは使っていないので未確認です。

*3:ただし、鉄道とBRTを乗り継ぐ際、定期運賃は通しの運賃になりますが、普通運賃の計算は鉄道部分とBRT部分の合算になります。

*4:東日本旅客鉄道株式会社一般乗合旅客自動車運送事業取扱規則 第2条の(1)において、『「駅」とは、当社の経営する一般乗合旅客自動車運送事業における停留所をいいます。』と定義されています。

*5:一部の実例として、JTB時刻表において、わたらせ渓谷鉄道の欄にJR・東武日光駅とのショートカットとなる日光市営バス路線を掲載している例があります。