9月14日、15日の2日間、宮城県登米市が『おかえり「おかえりモネ」ファンの皆様』という企画を実施していました。
通称として「おかえりモネファン感謝祭」と呼ばれていたため、この記事では以後「ファン感謝祭」と書きます。
2021年5月~10月に放送されたNHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」は、宮城県の登米市と気仙沼市を舞台とした物語でした。その舞台地として、放送から3年たった今、改めてドラマに関連する企画を実施するというものです。
NHKのキラーコンテンツである「連続テレビ小説」や「大河ドラマ」の舞台となる地域では、その放送期間中、様々な企画を行って観光客の誘致や、地域の魅力の再発見につなげるということを行ったりします。
しかし、「おかえりモネ」が放送された2021年はコロナ禍の真っただ中。もちろんドラマに関連した企画は行われていたし、実際に観光客が増えたりふるさと納税の寄付額が増えたりといったことはありましたが、「コロナ禍さえなければもっといろいろなことができたのに」という思いはあっただろうと思います。出口の見えない状況の中、「おかえりモネ」はその最後に「コロナ禍の終わり」を描いたことでも話題になりました。
ファン感謝祭の数々の企画と登米薪能
今回のファン感謝祭では、主な企画としては以下のものがありました。
- 秋の森 森林セラピー
9月14日、15日の8:30からの実施。「森林セラピー」とは、森の中で、心をリラックスさせたり軽い運動を行うことで健康の維持・増進を図るプログラム。登米市にもその基地があり、ドラマの序盤に登場していました。 - 寺池園特別限定公開
9月14日10:30~15:30の実施。ドラマの序盤、主人公が暮らすことになった家のロケ地の公開。ドラマの放送期間中や、放送終了後約1年間は毎日公開されていましたが、もともと私有地のためその後はほとんど公開されていません。2023年と同様、秋祭りに合わせて1日だけ限定で公開するという企画です。 - 講演会「まちを演出する~おかえりモネはなぜ登米市だったのか~」
9月15日15:00から実施。ドラマ「おかえりモネ」の一部の週のディレクターを務めたNHKの梶原登城氏を招き、ドラマと登米市のかかわりといったことについて講演していただくという企画です。
また、ファン感謝祭の企画ではないのですが、同じタイミングで重要な企画として、秋まつりの中で例年行われている「登米薪能(とよまたぎぎのう)」があります。これもドラマの前半で登場し、夏木マリさんや浜野謙太さんが役者を演じていました。今年は9月14日の17:00から行われました。
この全部に参加することはできなかったのですが、この2日間の様子や、その中で考えたことなどを、何回かに分けて綴っていきたいと思います。
はじまりは東海道新幹線のトラブルから
この2日間の私の予定としては、早朝に大阪を出て、14日の昼に寺池園の特別公開、夜に登米薪能の観覧。そして15日は午前中に何かをして午後に講演会に参加し、夜は気仙沼に向かう、ということにしていました。
上に挙げた企画のうち、森林セラピーは当初から別にいいかと思っていたのですが、実は、参加者だけが知ることができたドラマに関する秘密の情報があったらしく。まあ、そんなことは事前に知る由もありませんでしたが。
大阪から登米市に向かうには、東海道新幹線で東京に向かい、東北新幹線で仙台に出て、仙台から高速バスに乗るという行程になります。寺池園の公開時間に間に合わせるためには仙台駅から10:35発の登米町(とよままち)行きの高速バスに乗る必要があり、そこから逆算すると新大阪から始発(6:00発)かその次(6:02発)ぐらいの新幹線に乗らないといけません。東京駅でも仙台駅でも乗り継ぎ時間は20分ほどと結構タイトです。
6:00発ののぞみ200号に乗り、順調に進んでいたのですが、途中で突然謎の減速を始め、なぜか小田原駅に停車してしまいました。しばらくして「車内の安全確認のため」というアナウンスが流れ、やがて32分遅れで発車。これだけ遅れてしまうと東京駅での乗り継ぎも間に合わず、後続の列車に変更して仙台へ。仙台に着いたのは予定より1時間遅れで11時を過ぎたので、10:35発の高速バスにも間に合いません。
仙台から登米市への高速バスは2路線あり、市の中心部に向かう路線と、今回の目的地である市の東部の登米町に向かう路線があります。中心部に向かう路線はだいたい日中は1時間ごとに運行しているのですが、登米町行きは10:35発の次は14時台までありません。つまり、直行できるバスは待ってられないので、とりあえずは中心部に向かうしかありません。
下車した登米市役所から、登米町方面に向かう市民バスもあるのですが、便数が少なく全然時間が合わないので、タクシーで直行。約10kmで4,000円ちょっとかかりました。登米町に着くのは12時頃の予定だったのですが、結局14時を過ぎてしまいました。
ちなみに、東海道新幹線のトラブルの原因は、グリーン車で暴れた乗客がいたためでした。その後の停車駅では、「被害を受けられた方は、ホーム上の係員や改札口の駅員にお申し出ください」とアナウンスがありましたが、どんだけ暴れたのかと……。
2度目の寺池園。洗濯物に感じたスタッフの思い入れ
寺池園は、ドラマの前半でヒロインの永浦百音(ももね)が過ごすことになる家のロケ地です。気仙沼で暮らしていたヒロインが、祖父の知り合いで、登米で広大な山林を保有する「山主」の新田サヤカの家に下宿するという形でした。
この寺池園は2度目の訪問です。前回は2021年6月上旬だったので、「おかえりモネ」の放送が始まった直後ぐらいでした。その時のことは下記の記事に書きましたので、写真を見比べていただくのもいいかもしれません。
入口には「おかえりモネ」のポスターと、ドラマの登場人物のイメージを用いた季節ごとの観光用ポスター。
3年前に訪ねた時にはまだブルーシートがかけられていた小屋には、ドラマと同じように洗濯機が置かれていました。
3年前の写真を見返しても撮ってなかったので、たぶん物干し竿はなかったのではないかと思います。
物干し竿だけならともかく、おそらく洗濯物はこの日のために用意されたのでしょう。ここの洗濯というのはドラマの中では結構重要な意味があるんです。
- ドラマのオープニング(第1回)で、百音が初登場するのがここでの洗濯のシーン。快晴の朝に洗濯物を干した後、家の中のテレビから「この後雨が降る」という天気予報が聞こえてきて「今干したばっかなのに~!」とオチがつく。
- 気象の勉強を始めた頃、基本的なことを教えてくれていた医師の菅波光太朗(のちに結婚を約束することになる相手)から、誕生日ということで「中学校の理科の教科書」をプレゼントされる(第24回)。それをきっかけに理解が進み、洗濯物が太陽の熱で乾くことから「水の蒸発は主に太陽の熱で起こる」ということを体感として理解する。そして、その原理を応用して「木材をビニールハウスで早く乾燥させる」ことを思いつき、森林組合での大量受注の成功につなげる。
こういう印象的なシーンに「洗濯物」が重要な役割を果たしているのですが、それを再現するためにわざわざ洗濯物を用意されたというあたりに、登米市のスタッフの方々の並々ならぬ思い入れを感じました。
寺池園の特徴は、その一角から北上川の風景が見えるということです。山主の家らしく高所から見下ろす眺望や、ドラマのモチーフであった「水の循環による海と山の繋がり」を象徴する川の流れは、「おかえりモネ」というドラマにぴったりの場所だったのだと思います。ドラマの中でも何度もこの方向のカットが挿入されていました。
「新たな観光資源」と銘打ったものの……
それにしても、ロケ地になる以前は個人の別荘的な土地であり、全く知られていなかったであろうこの場所を、NHKはよく見つけ出したものだと思います。
今回はこの場所のオーナーも来られていて、直接オーナーから伺った話や、スタッフの方から間接的に伺った話などでおおよその経緯を知ることができました。オーナーの方は当初は別の話でNHKから相談を受けていて、応対しているうちにこの場所をロケ地として使いたいという話になっていったそう。いくつか候補はあったらしいですが、ここが最適だということになったようでした。
朝ドラのロケ場所になるのは公共的な施設や、現役で稼働している店舗などが多く、こういった場所が使われるのは少ないらしいです。
ファンとしては、1日限定の公開ではなく、いつでも訪ねられる方がいいなあ、と思ってしまうのですが、普段使われていない敷地を維持するということだけでも大変なはず。今回も数日前から草刈りをするなどして、来訪を受け入れられるように整えていたそうです。以前、毎日開放していた時は200円の料金が設定されていましたが、ドラマのファン以外に訪ねる人はいない場所なので、今となってはその程度では全くペイしないでしょう。
ドラマの放送が始まる頃には「新たな観光資源」と銘打っていましたが、普段から活用するのもなかなか難しく、結局、たまにきっちりと整備をしてファン向けに公開するという以外にやりようはないのでしょう。ドラマのロケ地を活用していくことの難しさみたいなものが感じられるように思います。
はじめて目撃したサメぬいの集団
寺池園を見学していて少したった頃、一人ずつサメのぬいぐるみを持った女性のグループがやってきて、サメのぬいぐるみを1か所に並べて記念撮影をしていました。スタッフの方もノリノリで、撮影に合わせてシャボン玉を吹かせようとしていたりして、とても楽しそうでした。
「おかえりモネ」のファン活動として、ロケ地にサメぬいが集まる画像はSNSでよく見るのですが、実際にその場面を目撃したのは初めてでした。この後、登米では何度か見かけたので、そのあたりのことはまた改めてまとめて書きたいと思います(批判するとかそういうことでは一切ないです。念のため)。
サメぬいのことはこちらの記事に書きました。