君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

日田彦山線BRT復旧案について考える (2)気仙沼線・大船渡線との比較

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日田彦山線でも運用されているキハ147形車両(写真は三角線赤瀬駅にて)

2017年7月の豪雨で被災し、バス代行輸送が続いている日田彦山線添田~夜明間。その復旧問題で、2020年5月18日、沿線自治体で唯一鉄道での復旧を主張していた福岡県の東峰村がBRTでの復旧を容認する方向だと報じられました。

www.nishinippon.co.jp

また、5月21日には、JR九州と福岡県知事が、JR九州が一般道経由の案を提示していた東峰村内の筑前岩屋~宝珠山間を専用道化することで大筋合意していると報じられました。

mainichi.jp

そして昨日(5月26日)、東峰村長がBRT転換を受け入れると表明したことが報じられました。

this.kiji.is

前回の記事では、上記の流れも踏まえて、鉄道ルート、代行バスルート、そしてBRT案のルートがどのようになっているのかを見てみました。

a-train.hateblo.jp

今回は、「JRから地元へのBRTの提案」としてほぼ同じ位置づけになる以下の資料を参照し、気仙沼線BRT・大船渡線BRTでの現在までの実施例を加えて比較してみたいと思います。

また、鉄道の走行区間の様子については下記動画を参照しました。


【前面展望】 JR九州 日田彦山線 日田→田川後藤寺 938D キハ125-14

なお、私は日田彦山線は訪ねたことがないため、地域事情についてはまさに机上の空論となることを予めおことわりしておきます。

長くなるので最初に要旨を

いつもこのブログの1記事は2000字~3000字を目安に書いているのですが、今回は7000字以上になりそうなので先に要旨を書いておきます。

  • バスの鉄道に対する優位性はあらゆる意味での柔軟性(ルート設定、停留所の増設、本数設定など)。
  • 日田彦山線は、その柔軟性を活かせる場面は気仙沼線大船渡線と比べると少ないと考えられ、BRTならではのメリットは発揮しづらく「一部を専用道化した鉄道代替バス」という位置づけにとどまるのではないか。
  • 気仙沼線大船渡線の事例は他のローカル線の存続を考える際の1つのモデルになり得るが、バス+専用道という組み合わせがどの程度適性があるかは地域によって異なることを認識しておく必要がある。

路線整備

BRT専用道の整備

日田彦山線の専用道は、上記の通り東峰村において導入される形になりそうです。添田~夜明間の営業キロ29.2キロに対して彦山~筑前岩屋間は7.9キロなので、全区間に占める割合はおよそ27%です。また、筑前岩屋~宝珠山間も専用道化した場合はそれぞれ14.1キロ・48.3%になり、専用道の比率としては大船渡線気仙沼~盛間)に近くなります。

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東峰村内(彦山~宝珠山間)の専用道(青線)予想ルート

彦山~筑前岩屋間は一般道が大きく迂回しているため(上図の紫の線)、専用道化の効果は大きいと言えます。ここで専用道を導入しないならBRTの意味はありません。

その他の区間でも専用道化は可能な部分があると思いますが、定時性・速達性の向上が大きく見込めないのであれば、費用対効果を考慮して専用道化をしないという判断はあり得るかと思います。

また、山の中を走る区間を専用道化した場合、途中の停留所の増設が難しくなるという問題もあるので、地元の要望も踏まえて検討する必要がありそうです。

筑前岩屋~宝珠山間が専用道化された場合、集落よりもだいぶ高い場所を通るため、JRが提案しているように停留所を増設するのは不可能になります。

それでも専用道を選ぶのは、この区間の途中にあって観光スポットとなっている3か所のメガネ橋を活かすために、例えバスであっても走らせておきたい、ということも、もしかしたらあるのかもしれません。この辺は村の考えも確認する必要がありそうです。

経路調整・停留所の増設等

気仙沼線大船渡線ではBRTで数多くの新駅が設けられましたが、その中で大きな要素は「新設住宅地」「病院」「役場」「高校」です。震災復興にあたって再整備されたこれらの場所に柔軟に対応する形で、ルートを組み替えつつ駅が新設されています。

一方で、日田彦山線の沿線にはこうした要素があまりありません。したがって、バスが鉄道と比べて優位である経路や停留所の柔軟性については、積極的に活かす場面が乏しい面はあります。

ただ、日田彦山線の資料上言及されていませんが、上記ルート図で紹介したとおり、現行の代行バスは彦山~大行司間で迂回し、経路上にある東峰村役場2か所(小石原庁舎・宝珠山庁舎)に停車しています。

この扱いがBRT化によってどうなるかは気になるところですが、資料内に「他の交通手段との結節強化」とあり、東峰村役場については西鉄バスの小石原~小石原庁舎~宝珠山庁舎~大行司駅宝珠山駅間の便があるため、そちらに任せてしまう考えかもしれません。ただ、東峰村の立場としては、代行バスが役場に寄っていたのにBRTが寄らなくなるのはサービスダウンだ、という主張もあり得ると思います。専用道経由と役場経由に系統を分けるということも考えられるのかもしれません。

また、冒頭の資料には「日田市内の4つの高校を通るルートは考えられないか」という日田市民の提案が記載されています。光岡~日田間の沿線には高校が複数あり、もし日田彦山線沿線からの通学需要があるのであれば、この区間で柔軟に高校に立ち寄るような設定は考えられそうです。

災害時の安全対策

これは、両者の災害の特徴が影響している部分と言えそうです。

地震津波は事前予測はほぼ不可能です。発生した瞬間に対応が必要になり、その場面でBRTの柔軟性は効果を発揮しそうです。線路と道路を比較した場合、地震に対しては道路の方が比較的強いという面もあります。

日田彦山線の場合、豪雨での被災でした。気象状況による災害は概ね予測が可能で、事前に運行を抑止することが基本的な対策となります。そのため、BRTの柔軟性は発揮しづらい面があります。

道路が寸断された際にバスのまま迂回路を走行可能、という面はありますが、山間部では迂回する選択肢も乏しく、メリットとして打ち出しづらいかもしれません。

車両の特徴

バリアフリー対応
  • 日田彦山線
    フラットフロアや車いす用スロープなどの設備
    車体傾斜機能や駅などでの乗り場を嵩上げで乗降時の段差を軽減
  • 気仙沼線大船渡線
    全車ノンステップバスを使用
    駅や専用道の乗り場はバスに合わせた高さとし、一般道では可能な限り歩道がある場所に駅を置いて段差を軽減

これは両者ほぼ共通と言えます。ただ、気仙沼線大船渡線では全車中型バスなのに対し、日田彦山線の資料では小型バスの構造が詳しく紹介されています。現状の代行バスもそうなのですが、区間によって小型バスと中型バスを使い分けたりするのかもしれません。

その他の特色

BRTにどのような特色を出すか、日田彦山線に関してはこれから検討することになるのだろうと思います。

気仙沼線大船渡線の観光改造車両は、地元の高校生に不評だったとのことで後継車も作られずに引退となり、電気バスも1日1往復のみの運行にとどまっています。必ずしも成功しているとも言えないだけに、必要性や運用方法を見極める必要がありそうです。

また、キャラクターのラッピングも2019年9月に導入した新車では行われていません。大規模に被災した沿線の中で、明るく心を和ませるような車両にしよう、という意図があったのであれば、復興が進んだ段階ではその役割は終えたと判断してもおかしくないかもしれません。

ダイヤ設定

鉄道との並行運行

気仙沼線の前谷地~柳津間は、当初は従来通り鉄道のみで運行されていましたが、石巻線との接続強化のためにBRTが延長運行され増発となり、以前よりもサービスレベルの向上を実現しています。

一方、日田彦山線は鉄道の頃から日田まで乗り入れており、代行バスでも日田まで運行しているのを引き続き継続するということなので、むしろサービスレベル維持ということになります。

両者は「鉄道との並行運行」ということは似ていますが、サービスレベルの「維持」か「向上」かは異なりそうです。

これとは別に、添田から北、田川後藤寺あたりまでバスが直接乗り入れるという方向もあります。需要によっては今後、そういったこともあり得るのかもしれません。

鉄道との接続強化

鉄道と一体となった公共交通ネットワークとして運行する以上、これは言うまでもなく当然という感はあります。

運行本数

日田彦山線では、運行本数については特に言及されていません。

冒頭の資料の最初には、被災前の2016年度において、営業収益は営業費用の約1/10であったことが示されています。

また、下記の記事では、被災前の2016年度において、田川後藤寺~夜明間の輸送密度が299であったことが示されています。

www.nikkei.com

これは、気仙沼線の898(2009年度・柳津~気仙沼間)、大船渡線の453(2009年度・気仙沼~盛間)よりも低く、運行本数もそれを踏まえたものになるでしょう。

気仙沼線大船渡線において鉄道よりも増発されているのは、鉄道車両とバスの輸送力の差を補うため、という側面もありますが、それにしても、気仙沼線の本吉~気仙沼間の日中毎時2本の運転は、利用状況を見ても明らかに過剰です。

BRTの新たな価値として、フリークエントサービスによる利用しやすい交通機関、ということがあるのであれば、最低ラインを上回る増発ということも検討し得るとは思います。

一方で、増発のためには運転士など運行に当たる人員の確保が不可欠です。

気仙沼線大船渡線の場合、沿線が広範囲に被災し、もともとあった路線バス系統の運行も不可能になったことから、運行業務を委託したミヤコーバス・岩手県交通とも、JR線の運行に回せるだけの運転士が確保できたということが考えられます。

日田彦山線の場合はそういった状況でもないので、運転士を確保するハードルはより高くなりそうです。

そうすると、鉄道を上回るレベルの増発というのはなかなか難しいかもしれません。

利便性向上

バスロケーションシステム

これはBRTとしては標準装備でしょうが、日田彦山線の場合、どの程度実装できるかという問題もあります。

気仙沼線大船渡線の場合、専用道は全駅で対応、一般道は待合室がある駅や、施設に乗り入れる場合は施設内に設置して対応、という形です。日田彦山線の現行案の場合、待合機能は鉄道駅を活用することになると思いますので、鉄道駅には設置、一般道上の停留所は非対応、という形になるのでしょうか。

PC・スマートフォン等での情報取得

これは日田彦山線では特に言及はありませんでしたが、現状でもJR九州アプリの「どれどれ」で代行バスの運行情報が配信されており、BRTになっても同様になるものと思われます。

その他の情報発信

時刻表への掲載という意味では、おそらく日田彦山線についても気仙沼線大船渡線と同様の形になるかと思います。現状、JRの駅ではない小石原庁舎前・宝珠山庁舎前については時刻表には記載されていませんが、もしBRTでこれらを経由することになった場合は、気仙沼線大船渡線のBRTでの新駅と同様、追加して掲載されるものと思います。

また、JR九州が新設を提案している駅間の停留所についても、同様に記載されることになるのでしょう。

ICカード対応

気仙沼線大船渡線を利用している実感として、ICカードが使えるのは重要です。特にバスは車内精算が基本になるので(鉄道のワンマン運転での車内精算も同様ですが)、現金では支払いに手間取って遅延が発生するケースもみられます。

バスのICカードシステムはすでに普及しており、導入しない手はないのではないかと思います。

添田~夜明間の周辺各線はSUGOCAJR九州ICカードシステム)対応エリアにはなっていませんが、それは気仙沼線大船渡線においても同様であり、ICカードを導入しない理由としては弱いと思います。

鉄道駅の活用

鉄道・BRT接続駅

鉄道とバスの対面乗り換えについては、気仙沼駅盛駅路面電車での導入事例を参考にしたものと思われます。現状、代行バスはホームから遠く離れた駅横の広場から発着しているため、これによって乗り継ぎ利便性は大きく向上しそうです。

添田駅の「駅舎とホームとの結節強化」については、資料を見る限りでは意味が分かりません。現状、駅舎とホームがだいぶ(Wikipediaによると100m)離れているという問題があり、その移動の不便さを何らかの形で緩和するんでしょうが……。まさかムービングウォークを付けたりはしないと思いますが、構内通路に屋根を付けるとか、そういうことなのでしょうか?

BRT区間での鉄道駅の活用

日田彦山線の資料には「代行バスでは、立ち寄れなかった鉄道駅へ乗り入れるこ
とで……」とありますが、駅前ぐらい代行バスでも立ち寄ればいいと思うのです。詳しい事情は分かりませんが。

気仙沼線大船渡線の事例はいずれも専用道上の駅なので、無理なく鉄道駅を活用できるのですが、例示された宝珠山駅今山駅とも、一般道から外れて大肥川の対岸に駅があります。この場合、鉄道駅を活用することに大きな意味があるのかという疑問はあります。

大船渡線の長部駅などのように、一般道上に待合室の設備を設ける方がいいと思うのですが、道幅が狭いとそれも難しいので、このような形になっているのかもしれません。

観光誘致・地域活性化

日田彦山線の資料は、「鉄道跡地は提供できるから使い方は考えてね」という感じで、少し無責任な印象もあります。

沿線にどういった観光資源があるのかという問題もありますが、BRTが発着する日田駅には特急ゆふいんの森・特急ゆふも発着するわけですから、何かしらその辺と組み合わせた観光振興の提案とかできないものでしょうか。

まとめ

以上、JR九州の提案内容を細かく見てきましたが、気仙沼線大船渡線と比較した時、以下の点でバスのメリットを活かしにくいように見受けられました。

  • 災害対策の点で、地震津波は迅速な避難が必要でバスや道路のメリットが活かせるのに対し、豪雨は事前の運行抑止が基本のためメリットとして強調しづらい。
  • 沿線に、鉄道ルートから外れて立ち寄る意味がある場所(役場、病院、高校など)が少ない。復興などで町の形が変化していくわけでもないので、それに柔軟に追従していく必要性もない。
  • 被災前の利用状況や運転士確保の面から、鉄道と同等以上の増発は見込みにくい。

そのため、BRTが新しい輸送サービスというよりは、一部を専用道化した鉄道代替バス、という位置づけにとどまるのかもしれません。

以前から、気仙沼線BRT・大船渡線BRTの事例は、他のローカル線で存続問題を考える際の1つのモデルになると書いてきました。

そうした面があるのは確かだと思いますが、一方で、バス+専用道の組み合わせがどの程度適性があるかは地域ごとに異なる、ということを、今回、日田彦山線と比較してみて認識することもできました。

この記事は、もともと現在進行形の問題について考えてみる趣旨で書き始めたものですが、まとめ切れないうちに事態は次々と進んでいき、BRT案での決着となりました。

書こうと思ったきっかけは、「福岡県知事がBRT専用道を東峰村内で延伸する提案を出し、それを受けて東峰村がBRTを容認する方向」と報じられた経緯に、なぜ専用道を延ばせば容認できるのか疑問を持ったことでした。

今回、2回に分けてまとめてみたことで、地域事情についてある程度は理解を深められ、東峰村がメガネ橋を含めた「鉄道のある風景」を観光資源としていたことも知ることができました。そこを鉄道でなくてもバスが通るなら、まだしも容認できる…というところなのかもしれません。

やはり、単なる「鉄道維持のわがまま」で片づけていけないな、ということを改めて認識させられました。