「ぐるっと九州きっぷ」を利用して福岡・熊本・鹿児島を巡るシリーズ。
前回は鹿児島駅から吉松駅まで特急「はやとの風」に乗車。錦江湾と桜島の眺望、肥薩線に残る100年を超える駅舎などを楽しみながら、吉松駅まで来ました。
今回は吉松駅からさらに肥薩線を進み、人吉駅までD&S(デザイン&ストーリー)列車「しんぺい」に乗車します。JR九州は、いわゆる観光列車を「D&S列車」と称しており、その1つになります。
「いさぶろう」「しんぺい」とは
タイトルにある「いさぶろう」「しんぺい」は、熊本~人吉~吉松間を走行する観光列車で、下り列車の列車名が「いさぶろう」、上り列車が「しんぺい」となります。列車名は、人吉~吉松間の開業にかかわった逓信大臣山縣伊三郎、鉄道院総裁後藤新平にちなむものです。
この人吉~吉松間は、北から人吉駅・大畑駅・矢岳駅が熊本県、真幸駅が宮崎県、吉松駅が鹿児島駅、という県境エリアで、スイッチバックやループ線などを駆使した山越え、「日本三大車窓」の1つに挙げられる眺望が見どころです。
現在、鉄道で鹿児島へ行くルートは九州新幹線、肥薩おれんじ鉄道(旧鹿児島本線)、日豊本線、肥薩線の4ルートがありますが、その中で最初に開業したのがこの肥薩線ルートであり、それだけに悲願の開通だったのだろうと想像します。
なお、「いさぶろう」「しんぺい」は1日2往復の運転ですが、うち1往復は熊本~人吉~吉松間の運転で、熊本~人吉間は特急として運転されます。もう1往復は人吉~吉松間のみの運転です。
吉松駅にて
特急「はやての風」を降り、吉松駅で待っているとやってきた「いさぶろう」1号。車体前面や側面だけでなく、天井まで真っ赤に彩られているあたりにこだわりようが窺えます。
折り返し、「しんぺい」2号となります。
キハ40系ファミリー3編成の並び。一番奥で特急「はやとの風」1号の鹿児島中央行きが今まさに発車しようとし、駅員さんが見送りで手を振っているのが見えます。
新潟、東北、北海道方面ではキハ40系の撤退話が出ていますが、そこから見るとキハ40系ファンとしては夢のような場所ではないかと思います。
はやとの風が発車し、改めて2編成の並びとなった吉松駅。
側面のロゴ。いわゆる水戸岡デザインではもっとアレンジしたロゴが多いのですが、その中では比較的シンプルなデザインだと思います。
車内の様子。座席はテーブル付きのボックスシート。今では特急としても運行されますが、もともと普通列車用の車両なので、リクライニングなどはない簡素な座席です。
なお、普通列車とはいえ座席のほぼすべては指定席です。満席だとごくわずかにある自由席に期待するか、立っていくしかないので、指定席を確保しておくのが無難でしょう。
天井の丸い照明は「はやとの風」と同じもののようです。
車内に取り付けられた、前面展望用のディスプレイ。
後でも紹介しますが、スイッチバックがある時には、方向転換をするたびに画面も前後切り替わっていました。
取った指定席は戸袋窓のところ。こんな感じだったのが残念ですが、構造上、戸袋窓は手入れがしにくそうなのでやむを得ないのかなと思います。
真幸駅
吉松駅の次の駅は、山の中に静かに佇む真幸(まさき)駅。
「真の幸せ」ということで、幸せを願う鐘や絵札など、駅を楽しめる設備があります。
ホームに展示されている、山津波で流れてきた重さ8トンもの巨石。この山津波自体は昭和47年に発生したものですが、そういうものが発生するような難所に鉄道を通したという苦労が偲ばれる面もあります。
これは真幸駅を発車した直後の前面展望ディスプレイ。左側の線路は今、吉松からやってきたものであり、一旦折り返して発車します。ディスプレイの映像はちゃんと方向転換を反映しています。
右奥は行き止まりになり、さらに折り返して一番右に見える線路へ進んでいきます。
これはその折り返しの直後。右側に見える線路が真幸駅につながる線路で、それよりも高い方向へ進んでいきます。
真幸駅の横を通ったところ。折り返しを繰り返す「スイッチバック」によって、これだけの高さを稼ぐことができました。
駅を通り過ぎましたが、駅の出店にいた方々はホームに立って見送ってくれています。とても嬉しくなるシーンです。
車内販売で売られる人吉駅弁「栗めし」
車内販売で売られている人吉駅弁の栗めし。直前に「はやとの風」の車内で嘉例川駅の駅弁「かれい川」を食べたばかりなのに、ホイホイ買ってしまいました。
とはいえ、さすがにすぐに食べるのは無理なので、この後、特急「かわせみ やませみ」に乗り継いだ後でいただきました。
かわいい栗の形の器。プラスチック製なので、持ち帰って使うこともできます。
炊き込みご飯に大きな栗がごろごろと乗り、煮物メインのおかずが詰め込まれたお弁当。個人的には栗がやや甘めで、もう少し味が薄い方が好みですが、それは味覚の違いの問題。その点も含めて、「かれい川」が100点としたらこちらが90点という感じで、十分に満足できる弁当だと思います。
「日本三大車窓」のえびの高原の眺望
真幸~矢岳間には、えびの高原を一望でき「日本三大車窓」の1つに挙げられる地点があります。
同じ「日本三大車窓」である長野県の姨捨駅は駅から眺めることができますが、ここは列車から眺めることになるので、一時停車のサービスがあります。
矢岳駅
「いさぶろう」「しんぺい」は人吉~吉松間は各駅停車ですが、それは通過運転する需要がないからではなく、各駅に停車する意味があるからだということが、乗っているとよくわかります。
ここも古い木造駅舎の姿を堪能できます。
駅の近くにはSL展示館があるので、ちらっと見に行ってみるのもよいかと思います。
大畑駅
大畑は「おこば」と読む難読駅です。
かなり高低差があります。
駅を拡大して撮ったもの。
右下に3本の線路が見えますが、これはそれぞれ以下の役割があります。
- 左側:今の場所からぐるっと時計回りに円を描くようにして、写真左側からたどりつく線路
- 中央:写真下側で折り返し(折り返し用に信号機が見えます)、大畑駅に向かうための線路
- 右側:大畑駅で折り返し、人吉駅へ向かうための線路
つまり、まずは円を描くループ線として大畑駅に近づき、さらに駅を含むスイッチバックで人吉に向かうという壮絶な配線になっているわけです。
もちろんその様子は、前面ディスプレイで見ることができます。
そうしてたどり着いた大畑駅。
名刺を貼り付けると出世すると言われている駅。私は出世欲は特にないのでホームから望遠で撮影しました。
終点・人吉駅へ
そうして列車は終着の人吉駅へ。
「SL人吉」号で使用される蒸気機関車が、静かに煙を吐いていました。
使い込まれた年季を感じさせる、煤けたレンガ車庫が素敵です。
人吉駅を起点とする第三セクター鉄道「くま川鉄道」の車両。「田園シンフォニー」と名付けられた優雅な見た目がいいですね。
音符があるとついメロディーを追ってしまいますが、ベートーヴェンの交響曲「田園」のフレーズのようです。
この区間は、外界から切り離されたかのような山の中を、風景とダイナミックな配線を楽しみながら移動でき、起点・終点含めてたった5駅とは思えないような濃密な時間でした。
次は人吉から熊本まで、最新のD&S列車である特急「かわせみ やませみ」に乗車します。