広い意味では鉄道だけではないんですが、鉄道事業者がやってることということで。
エスカレーターでの転倒事故を防止するために東京駅にて「エスカレーター歩行防止対策」を試行します
https://www.jreast.co.jp/press/2017/tokyo/20181211_t01.pdf
あのJR東日本が東京駅でやりだした、ということで、いろんなメディアが取り上げているようです。
この件、論点はいろいろとあって、その全部に言及すると到底キリがないのですが、ここでは「お客さまの転倒事故を防止するため」という目的が提示されているので、そこに絞って書きたいと思います。
この取り組みには2つの欺瞞があります。
1つは、エスカレーターでの駆け下り・駆け上がりと、通常の歩行を意図的にごちゃ混ぜにしていること。
上記のリリースでも、駆け上がり・駆け下りが危険だということは提示されており、それは一般的に受け入れられやすいことだと思いますが、一方で、「歩くことがなぜ危険か」ということは一切提示しないまま、「歩かないでください」と禁止しようとしています。
多くの人は、エスカレーターを歩くとき、隣や前後の人にぶつかったり、ステップを踏み外したりしないよう、通常払うべき注意を払って歩いているはずです。それの何が危険なのでしょうか。
これはJR東日本に限った話ではありません。
日本エレベーター協会が、「歩かないで!」と呼びかけるためのアニメでも、なぜか駆け下りのシーンだけが提示されており、普通に歩くことがなぜ危険なのかはさっぱりわかりません。
もう1つの欺瞞は、上記のリリースから引用すると「お急ぎのお客さまは、付近に設置されている階段をご利用いただくこと」という点にあります。
エスカレーターを普通に歩くと、当然エスカレーターの動力が加わってそれなりの速度になります。
これと同じ速さで階段で移動しようと思うと、それなりに急がなくてはいけません。エスカレーターで歩く以上に、周囲への注意が行き届かなくなります。また、エスカレーターは方向が固定されていますが、階段では、一応の区切りがあるとしても、上る人と降りる人が混在しており、危険性はエスカレーターよりも高くなります。
つまり、この呼びかけは、「エスカレーターでの危険さえ排除できればいい」「他のところでもっと大きな危険が発生しても知ったことではない」ということに他ならず、それが正しい対応策だとは到底考えられません。
別の論点について1つだけ触れると、メーカー側の言い分として「エスカレーターはそもそも歩くような設計になってない」という主張があります。
ならば、歩きにくいようなエスカレーターを開発すべきです。
「どうぞどうぞ歩いてください」と言わんばかりの形状しかないのに、歩くことを想定していない、というのはかなり無理があります。
確かに、一部、危険な利用をする人はいるかもしれません。
ですが、多くの人は周囲に注意しながら、事故が起こらないようにして歩いています。
ならば、そのすべてを禁止するのではなく、現実的に「片側空け」が定着していることを踏まえて、本当に危険な行為をいかに減らせるか、という視点で対応策を考えるべきではないでしょうか。
今の取り組みの進め方は、運用側(メーカーや施設管理者)が、歩行を禁止したい本当の理由を隠蔽したまま、実はまともに成立していないいろんな理由を掲げて、利用者に不便を押し付けようとしているようにしか見えません。
こういうやり方は好きではないです。