君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

「高輪ゲートウェイ」はなぜ炎上したのか

とても興味深い現象だと思って見ています。

 

www.sanspo.com

山手線の29駅、せっかくきれいな漢字が並んでいたのに30駅目でまさかの“横文字かぶれ”…。「ゲットアウェイ」(立ち去れ)ではなく開発エリアの玄関口の意味らしいが、いかにも外国人を意識した五輪ありきの発想。駅名にはインパクトもひねりもいらない。分かりやすさが大切なのに、わざわざ余計なものをつけるセンスは分からない。 
毎年多くの人が集まる14日の泉岳寺義士祭も間近。圧倒的1位なのにスルーされた「高輪」の応募者のために「われら一党、そのご無念を晴らす」と大石ら四十七士が当日、打ち揃ってJR東日本に討ち入りならぬ談判に…。まだ考え直す時間があるのでは。

www3.nhk.or.jp

新駅に近い「高輪泉岳寺前商店会」では、地元の名前をPRしようと駅名を「高輪」にしてほしいと、チラシを配布したり署名活動をしたりしてきました。

商店会の会長の石川進さんは「正直、なんだか微妙な駅名だと思いましたが、高輪と入れてもらえたので、がっかり半分、喜び半分です。今後はこの名前をもとに、地元を盛り上げていけるように頑張りたいです」と話していました。

また高輪に住む20代の女性は「あまり聞かない駅名でかっこいいなと思いました。いろんなお店や施設が入った便利な駅になってほしいです」と話していました。

高輪に職場がある女性は「響きはいいと思いますが、『ゲートウェイ』がつく施設は多いと思うので、省略すると間違えたりしないかなと思ってしまいます」と話していました。

近所に住む小学生の男の子は「外国の名前みたいだなと思ったので、もっと日本だとわかるような駅名のほうがよいと思いました」と話していました。

 

私自身の感想は前回の記事(「品川新駅」は「高輪ゲートウェイ」に - 君と、A列車で行こう。)で書いた通りですが、改めて考えてみると、炎上すべくして炎上したという感じもします。

 

その1つは、「ゲートウェイ」という単語の意味が理解されていない、ということ。

翌日に東京メトロ日比谷線の新駅として発表した「虎ノ門ヒルズ」が、「既存施設名そのままでわかりやすい」と好意的に受け入れられていたのとは対照的です。

JRは「ゲートウェイ」の意味も含めた選定理由を以下のように説明しています。

この地域は、古来より街道が通じ江戸の玄関口として賑わいをみせた地であり、明治時代には地域をつなぐ鉄道が開通した由緒あるエリアという歴史的背景を持っています。
新しい街は、世界中から先進的な企業と人材が集う国際交流拠点の形成を目指しており、新駅はこの地域の歴史を受け継ぎ、今後も交流拠点としての機能を担うことになります。
新しい駅が、過去と未来、日本と世界、そして多くの人々をつなぐ結節点として、街全体の発展に寄与するよう選定しました。  

 (http://www.jreast.co.jp/press/2018/20181201.pdfより)

 

しかし、駅名公募の際のニュースリリースでは、

田町~品川駅間では「グローバル ゲートウェイ 品川」のコンセプトワードのもと、国際的に魅力のある交流拠点の創出と『エキマチ一体のまちづくり』の検討を進めています。 

 (http://www.jreast.co.jp/press/2018/20180604.pdfより)

と、再開発プロジェクトのコンセプトが「グローバルゲートウェイ品川」であることが明記されており、これにちなんだ駅名であることは明白です。

なぜ駅名発表の時にこのキーワードを提示せず、「古来より街道が通じ江戸の玄関口として賑わいをみせた」などという、どうでもいいような話を提示するのでしょうか。

まだ再開発エリアの具体像が見えていないということもあり、「ゲートウェイ」という単語の意味がまるで理解されていない、ということが炎上につながった1つの理由ではないかと考えます。

深読みをすると、再開発プロジェクト自体が何らかの形で挫折していて、あまり表に出せなかったのではないか、という邪推もできてしまいます。

 

もう1つは、広報戦略として「駅名公募」という方法が適切だったのかどうか、進め方に問題はなかったか、という点です。

今回と同じように駅名を公募し、そして同じように不評だった駅名に、JR西日本嵯峨野線に新設予定の「梅小路京都西」があります。

この時、JR西日本は以下のように選定理由を説明していました。

梅小路」は、京都市の駅名公募結果においてもキーワードとして最多数であった。また、京都駅の西側約1.7キロメートルに位置し、京都観光の新たなサブゲートとなることから「京都」「西」を付与した名称とした。

JR嵯峨野線 京都・丹波口間新駅 駅名の決定:JR西日本より)

つまり、実際はどうあれ発表内容としては、キーワードの最多数が「梅小路」であったことに言及し、それを踏まえて選定したとしています。

こういう形であれば、まあなんとか、公募の顔も立ったと言えるのではないかと思います。

ところが品川新駅の場合、圧倒的1位が「高輪」で、共通ワードがあるにもかかわらずそのことに言及せず、しかも「高輪ゲートウェイ」が130位であることを公開してしまったので、「それでは何のための公募なのか?」と言われても仕方ない面はあるのではないかと思います。

要は、このへんの発表の仕方が非常に下手だ、と思うのです。

例えば、「応募の中で最多数であった『高輪』と、新しい街のコンセプト『グローバルゲートウェイ品川』の中核ワードである『ゲートウェイ』を組み合わせて駅名とした」という説明なら、納得する人もそれなりに多かったのではないかと思います。

 

前回の記事でも、「駅名公募なんて、本気で名前を募集するのではなくPRの仕掛けにすぎない」ということを書いていますが、だとしても、その仕掛けが適切だったのか、という評価軸はあり得るでしょう。

一方的に発信するだけの広報と違って、6万件以上も、採用されることを期待して応募した人がいるのですから、その多くの人がかけた手間に見合う納得感は必要になってきます。残念ながら今回は、そうはならなかったということでしょう。

 

秋に初めての計画運休をやって、不慣れでいろいろと問題点が出たのと同様、初めての駅名公募を行って不慣れでいろいろと問題点があった、ということになるのではないか、という気がします。

すでに撤回要求なども出ていますが、今後「高輪ゲートウェイ」が受け入れられるかは、再開発全体が成功するかどうかによると思いますので、そちらを着実に進めていただきたいですね。