君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

「ドラマはこうして作られる」~『おかえりモネ』トークイベント:(2)ドラマの道具などの展示

まるで現実に存在するかのように配置された『おかえりモネ』の小道具類

昨年5月~10月にかけて放送された、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』については、頻繁に訪ねている宮城県気仙沼市が舞台となったこともあり、このブログでもロケ地訪問や考察などでたびたび記事にしてきました。

詳しくは「おかえりモネ」カテゴリからご覧いただければと思いますが、その一部の週の演出を担当された梶原登城さんが、このドラマを題材にして演出の仕事について語る「ドラマはこうして作られる」演出のお仕事大公開トークイベントと題されたイベントが2022年11月3日に開催され、現地で参加してきました。

kesennuma-kanko.jp

トークイベントについては下記の記事をご覧いただければと思いますが、イベント会場に隣接したスペースでは、『おかえりモネ』の撮影で使用された道具などが、2022年10月末まで行われていた「おかえりモネ展」(以下「モネ展」と略します)で展示されていなかったものも含めて展示されていました。

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会場となった気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザでは、2階フロアの最奥部にある軽運動場がイベント会場となりましたが、その手前には「スクエアシップ」と呼ばれる会員制の交流スペースがあります。

フロア入口から、そのスクエアシップにかけてが展示場所となっていました。

エントランス

傘イルカくんとコサメちゃんのお出迎え

エントランスで出迎えたのが、ドラマでパペットとして登場した傘イルカくんとコサメちゃん。

ドラマの中では、気象情報会社ウェザーエキスパーツのエントランスにある「お天気ふれあいコーナー」に置かれていました。

気仙沼市の「海の子ホヤぼーや」と登米市の「ハットン」のぬいぐるみ

受付デスクには、ドラマとは直接関係ありませんが、舞台となった気仙沼市登米市のPRキャラクターのぬいぐるみが並べられていました。

旗や幕の展示

受付の後方には、旗や幕といった大きめのものが展示されていました。

シーンに合わせて2種類作成された大漁旗

漁師一家の及川家が震災の直前に新造した船に、ヒロイン(永浦百音)が暮らす永浦家が贈った大漁旗。これはモネ展では展示されていませんでした。

「第五十八 大伸丸」というのは、ドラマの撮影に使用された実在する船の名前ですが、贈り主が「永浦水産」となっています。

ドラマでは震災そのものの場面は描かれていませんでしたが、汚れてしまった旗を水につけて洗う、というシーンによって、船が被災したことが表現されていました。

「おかえりモネ展」で展示された大漁旗

モネ展では別の大漁旗が展示されていましたが、これは最終回、りょーちん(及川亮)が購入した中古船で船出する場面のものでした。

気仙沼市街地の定期船のりばに掲出された幕

定期船に掲げられた幕

ドラマの中で、気仙沼の市街地と離島の亀島を結ぶ定期船に使用された幕。これらも初めて展示されたものです。のりばの幕は、市街地側の桟橋に掲げられていました。

『おかえりモネ』で、亀島発着の定期船として使用されたファンタジー

気仙沼市の大島で展示されている、亀島側の桟橋に掲げられた幕

なお、亀島側の桟橋で使用されていた幕は、大島のウェルカムターミナルに展示されています。モネ展は10月31日で終了しましたが、こちらは11月4日時点でも見ることができました。

宇田川さんの筆による誕生日祝い

これもモネ展では展示されていなかった、誕生日祝いの宇田川さん(「姿を見せない人物」として話題になった登場人物)の書。

モネ展では、車いすラソンの強化指定選手選考レースで使用した「風が吹きます」が展示されていました。

「おかえりモネ展」で展示されていた宇田川さんの書

宇田川さんの書には、他に最終回で登場したものがありますが、そちらはモネ展でもイベントでも展示されていませんでした。

 

中継コーナー用のネタとして作成されたフリップ

これも初めて展示されたものだと思います。

テレビ番組の屋外中継用の小ネタとして作成されたもの。「キノコ」というと、ヒロインの百音が中継に出演する練習で「キノコがっ、キノコがっ」とガチガチになっていた場面を思い出しますが、それではなく、夏に用意していたネタがオリンピックで飛んでしまった時のものです。

 

『おかえりモネ』撮影スタッフ用のTシャツ

ドラマ内の小道具ではありませんが、撮影時に使用したスタッフ用のTシャツも展示されていました。

虚実入り乱れた配置

会場のエントランスと、交流スペースを区切る棚にはさまざまな小道具が配置されていましたが、その配置の仕方が面白かったのです。

ドラマの小道具と、現実にあるものが混ぜて並べられた棚

上の写真を見て、ドラマの小道具ではない部分はどこか、特定できますでしょうか。

赤丸の部分が、ドラマとは無関係なもの。オイシスターズはドラマオリジナルのキャラクターなので、それ関連はすべてドラマの小道具とわかります。でも、右側にあるウミネコサブレー、焼カツオせんべい、ホルモンカレー、ふかひれスープ、缶詰などはいかにも実際にありそうに見えますし、右上の「みんなの広場」のポスターもちょっと迷ってしまいそうです。

「おかえりモネ展」での気仙沼関連の小道具展示

以前にモネ展で展示されているのを見たから架空だとわかりますが、そうでなければなかなかの難問だと思います。

気仙沼産いちご「けせまひめ」の展示

モネ展では最後の数日だけ展示されていたらしい、気仙沼産いちご「けせまひめ」も出ていました。言うまでもありませんが、本物の苺ではないし、「けせまひめ」も架空のブランド名です。

 

気仙沼で何かに取り組んでいる人」を紹介するパネル

これは、気仙沼で何らかの取り組みをしている人を紹介するパネル。

上段に三生(後藤三生。亀島の寺の跡継ぎ)が紛れ込んでいるのがわかります。2つ上の写真を見ると永浦未知(ヒロインの妹)のパネルも作成されていますが、未知のパネルは別の場所にありました。

 

では、この中で架空の人物は三生だけなのかというと、答えは×です。

上段はすべて架空、下段はすべて実在の方になります。

よく見ると上段の方は、姓が「大島」「本吉」「唐桑」「岩井崎」という気仙沼の地名だったり、おそらくは「気仙沼つばき会」(漁師の夫人など、女性限定で結成している会)に由来すると思われる「椿」だったり、本物じゃない感が出ています。

ちなみに、イベント後にお会いした地元の方によると、写真は気仙沼に実在する方のもので、名前やプロフィールが架空なのだそうです。

ドラマでは、たぶん三生と未知以外のパネルは登場していないと思うのですが、気仙沼編の舞台となる「海のまち市民プラザ」の場面を隅々までチェックすれば、もしかしたら見つかるかもしれません。

「永浦、本日お休みです」

実際には交流スペースの受付や事務用として使用されているスペースには、ヒロインの永浦百音に関連する小道具が展示されていました。

実際の受付スペースを利用した百音関連の展示
そう、ここはウェザーエキスパーツ気仙沼営業所

受付のデスクには、実際に使用しているアクリル板やアルコール消毒液が残された状態で、百音の名札カードや案内資料が置かれています。ここに来たら、ドラマのヒロインを務めた清原果耶さんによく似た女性がいて、気象に関するいろんな相談ができそうです。

椅子の背に無造作に貼られていた紙

そして、とても効いていたのが、椅子の背に無造作に貼られた「永浦、本日お休みです。」の紙だったと思います。

ちなみに、イベント終了後にスタッフの方に「永浦さんはいつ出社されるんですか?」と尋ねたところ、「りょーちんの船が戻ってきたら出社すると思います」と回答をいただきました。

 

なお、会場には出演者のサインや制作者(脚本の安達奈緒子さん、演出担当の一木正恵さん、梶原登城さん)のメッセージが展示されていましたが、「撮影はOKだけどSNSなどで拡散しないでください」という条件でした。

ドラマロケ地の今後の方向性を示唆した?

この展示でとてもいいと感じたのは、初出しの展示物よりも、現実と虚構をあえて混ぜて、ドラマの世界が今そこにあるかのように演出された点でした。

イベントの翌日、日常の姿に戻った会場

翌日の朝に訪ねてみると、展示はすべて取り払われて日常の姿に戻っていました。つまり、1日限りの展示だったわけです。

1日限りなので、大きく配置を変えたりするのは現実的ではないということもあったのかもしれませんが、その制約を逆にうまく活かしたものになっていました。

『おかえりモネ』は、物語として閉じる終わり方ではなく、その後もそれぞれの人生を生きていく物語として終わりを迎えました。このことが、登場人物が今も気仙沼登米で、あるいは東京でどうしているんだろう、と想像させる余地を残し、だからこそ効果的な展示方法だったと思います。

 

また、ただの憶測にすぎませんが、今後のドラマロケ地としての方向性を示唆したものなのかな? ということも考えたりしました。

『おかえりモネ』に関しては、2022年10月末で、NHKサービスセンター登米気仙沼で主催していたモネ展が終了し、強力なコンテンツがなくなったことになります。

両市では、今後も別の形の常設展を予定しているとのことですが、放送終了から時がたつにつれ、ファンの関心が徐々に薄れていくのも避けられないことです。

そんな中、ドラマのロケ地ということをどうやって町に活かしていくか。もしかしたら気仙沼の目指す方向性は、町全体にドラマの世界を混ぜ込んだような仕掛けを作るということなのかな、とふと考えました。

今回は、まち・ひと・しごと交流プラザの内部だけでしたが、浮見堂や出港準備岸壁、大島の亀山や田中浜といった場所で、ドラマの世界と地続きになっていると感じられるような仕掛けがあれば、ロケ地を訪ねるのが今より楽しくなるかもしれません。

例えば、この秋から毎週日曜日、気仙沼市では「氣嵐&港町ミニツアー」を開催しています。

kesennuma-kanko.jp

昨年も何度か、気象予報士が同行するミニツアーが行われていましたが、今年は毎週実施となっています。

ドラマでは、ヒロインの永浦百音が市役所の人に「けあらしツアー」を提案して断られる場面がありましたが、それを知っていると、「モネの提案がようやく現実になったんだな……」などと想像したりもできます。

物理的な仕掛けだけではなく、ロケ地でスマホアプリを使うとドラマの場面が出てきたりするような、AR(拡張現実)を活用するのも1つの方法かもしれません。単なる妄想に過ぎませんが、そんな風になったら楽しいな、とも思います。

登米の方もそうですが、今後どういう取り組みを進めていくのか、楽しみに見守っていきたいと思います。