月曜~土曜の朝に放送されている、おなじみNHKの朝の連続テレビ小説。
2021年春からの作品は、宮城県の気仙沼市・登米市などを舞台とした「おかえりモネ」となることが発表されています。すでに現地ロケは終わっており、今はスタジオロケに移っているそうです。
主人公は永浦百音(ももね)。その愛称が「モネ」です。
その物語の舞台について見聞した記録を紹介しています。前回の記事はこちらになります。
百音の家の家業は気仙沼湾の牡蠣養殖のようですが、三陸の漁業は超おおざっぱに言えば湾内の養殖と外海での漁業の2本立てであり、脇を固めるキャラクターには当然漁師も登場します。
気仙沼では、遠洋漁業に出る船を見送る「出船おくり(でふねおくり)」という伝統行事があり、関係者だけではなく、観光イベントとして一般の人も参加することができます。
出船おくりの情報は気仙沼の観光情報サイト「気仙沼さ来てけらいん」で公開されます。ただ、当然のことながら平日が多く、なかなかタイミングが合いませんでした。
11月14日~15日で気仙沼・陸前高田などを訪ねましたが、たまたま14日の土曜日に出船おくりがあることを発見。
出航が11:00とのことで、朝に東京を出ても時間的にも間に合いそうだったので、訪ねてみることにしました。
一ノ関から特急バスに乗車
気仙沼にはいくつか出航岸壁がありますが、今回は、「コの字岸壁」という場所とのこと。
気仙沼駅からはだいぶ離れた場所にあります。
東京を朝一番で出て気仙沼まで向かう場合、鉄道で行くと
というルートが基本になりますが、これだと、気仙沼駅からタクシーに飛び乗ったとしてもなかなかギリギリです。
しかし、一ノ関から気仙沼・大船渡方面へ向かう岩手県交通が運行するバスに乗車すれば、岸壁近くのバス停までもっと早く向かうことができます。
- 一関駅前 9:00→10:18 浜町(一関大船渡線特急バス)
浜町バス停からは徒歩7分ほど。これなら、多少時間がかかったとしても10:30頃には現地に到着し、余裕をもって参加できそうです。
というわけで、一ノ関駅からバスに乗車します。なお、このバスは「特急」ですが要は長距離の路線バスであり、高速バスとは異なります。短距離利用も含めてどのバス停でも乗降車できますし、予約などは不要です。
政治的ないろいろで、一ノ関~気仙沼間の線形が凸型になってしまったJR大船渡線と違い、特急バスは国道284号を基本に東西にまっすぐ進むので、鉄道より所要時間が短く運賃も安いというメリットがあります。
ただし、JRの「三連休東日本・函館パス」や「いわてホリデーパス」などがある場合は対象外になるので、その場合は時間を取るか運賃を取るかといった比較になります。
浜町で下車してバスを見送り。
気仙沼は快晴でしたが風が強く、肌寒く感じられる日でした。
コの字岸壁へ
少し歩くとコの字岸壁へ。多くの漁船が停泊し、港町らしい活気がありました。
今回出航する第88昭福丸。気仙沼の臼福本店が所有する遠洋マグロ延縄(はえなわ)漁船です。
船の前方には国旗と臼福本店の旗、そして船名を示す旗。後方には大漁旗が掲げられています。
船の前では、気仙沼で旅館や商店を営む女性の方々で結成している「気仙沼つばき会」の方が、小型の大漁旗(福来旗=ふらいき)を配っていたので1本お借りしました。
こういう時、傍観者に徹するべきか、参加者として振舞うべきか迷うところもあるのですが、せっかくやってきたのに見送りもせず写真を撮るだけというのもなんだかなあ、と思いますしね。
第17福洋丸の出航
岸壁には、もう一隻、大漁旗を掲げた船がいました。
こちらは第17福洋丸。第88昭福丸よりは小型で、調べてみると近海マグロ漁船のようです。
出航の時間となり、見送りの方々が集まってきました。
岸壁に係留するためのロープを片付けるなど、忙しく動き回る乗組員の方々。
陸からたくさんの人が手を振る中、船は港を進んでいきました。
気仙沼湾の風景。奥に見える気仙沼湾横断橋は、気仙沼湾の新たなシンボルとなるのでしょう。
出船おくり
第88昭福丸の出航が近づき、陸では見送りの準備が始まっています。
たくさんの紙テープの端を一つに束ね、見送りの人が1つずつロールの部分を持ちます。
紙テープの束ねられた部分が見えます。
船の方では、紙コップを持った方が見えますが、恐らくは船の保有会社などの関係の方々なのでしょう。
「乾杯!」の掛け声とともに、全員で飲み干す姿が見られました。
そして、乗組員がそれぞれの持ち場に向かっていきます。
紙テープの準備も整ったようです。
テープを束ねた部分を船に取り付け、いよいよ出航です。
船はそのまま進むと他の船にぶつかってしまうので、タグボートが船首を牽引して向きを変えていきます。
紙テープは見送りの人の手を離れ、風にあおられて舞い、出船の風景を彩ります。
たくさんの福来旗が振られます。
湾内を進み、やがて小さくなっていく漁船。
おそらく乗組員のお孫さんなのでしょう、「じいちゃーん!お魚たくさん獲ってきてねー!」と何度も呼びかけていたのが印象に残りました。
まとめ:紙テープに託された想い
出航の時、船と見送りの人々を結んでいた紙テープ。
そこに、出航する人、見送る人の様々な想いが可視化されていたように見えました。
気仙沼の町を支えるのは何といっても漁業です。町の希望を船に託す一方で、遠洋漁業となると年単位ですから、長い間、家族とは離れ離れになるわけです。
父方の祖父が遠洋マグロ漁船の乗組員でした。父に聞かされた話では、祖父はほとんど家におらず、たまに帰ってきても少し経つと次の漁に出て行ってしまう。そんな生活だったそうです。
もちろん、日々の営みとして、何度も繰り返すことですから、「永遠の別れ」みたいなドラマチックな話ではないとしても、航海の無事を願う気持ち、次の再会を心待ちにする気持ち、そういったものは毎回変わらないのでしょう。
そして、この行事を観光イベントとして維持し、私のような部外者が参加する機会をいただけたことにも感謝したいです。