君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

「おかえりモネ」の舞台を訪ねて (7)気仙沼と登米、海と山を結ぶ気仙沼線BRT

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気仙沼市大谷海岸沿いを走行する気仙沼線BRTのバス

宮城県気仙沼登米を主な舞台とした、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」。

5月17日に放送が始まりました。

主人公は永浦百音(ももね)。その愛称が「モネ」です。

百音は、宮城県気仙沼沖に浮かぶ自然豊かな島で育ち、大学受験に失敗すると、祖父のつてで同じ宮城県登米市に移り住み、森林組合で働き始める、というストーリーですが、ドラマは登米で働き始めたところから始まり、そこで気象予報士の朝岡覚に出会って気象予報士を志すようになる、という展開になっています。

放送開始前の昨年秋、気仙沼の大島(ドラマでは亀島)や登米市登米(とよま)町(ドラマでは米麻町)を訪ねた記事を書いてきましたが、ドラマ開始後に追記したいことが出てきました。

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気仙沼線BRT、予想外の登場

5月31日放送の第11回で、モネが気仙沼線BRTに乗るシーンが登場しました。

東日本大震災で甚大な被害を受け、鉄道であったJR気仙沼線からBRT(Bus Rapid Transitバス高速輸送システム)に転換された気仙沼線BRT。

登米市の柳津(やないづ)駅から気仙沼市気仙沼駅を結びます。

まさにこのドラマにぴったりと一見思えるのですが、実は登場するとはあまり考えていませんでした。

その理由は大きく2つあります。

1つは、気仙沼線BRTの登米市内の駅である柳津、陸前横山の2つの駅が、登米市の南東の外縁に位置し、主要な舞台である登米町へのアクセスも不便なことです。車なら10分ほどですが、柳津駅と、登米町を結ぶ登米市民バスは平日で1日4往復、休日は2往復しかありません。

もう1つは、地元の人が気仙沼登米を行き来するなら車を利用するのが現実的で、柳津と気仙沼の間を乗り通すのは鉄道ファン、バスファン、青春18きっぷ等の乗り放題切符を持った旅行者、といった趣味的な人種にほぼ限られることです。

つまり、地元の人であるモネが、両地域の移動手段としてBRTを使うということが現実的にあまりイメージできなかったのです。

海と山をつなぐシンボルとして

気仙沼線BRTは、モネが登米で働き始めて初めての盆休み、実家の気仙沼に帰省する場面で登場します。

柳津駅がモデルの「桃津駅」までは、下宿先の女性(新田サヤカ)に車で送り届けてもらい、そこから気仙沼までBRTに乗車します。

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ドラマの「桃津駅」のモデルであるJR柳津駅

彼女は高校を卒業したばかりで、免許を持っていないか、持っていても車は使えないだろうと考えると、この設定は妥当な気がします。

桃津駅のシーンでは、駅で鉄道とBRTがつながっていること、震災で被災した鉄道の復旧までの間、市民の足としてBRTが設けられたことがナレーションでしっかり説明されています*1

そして、今後、この気仙沼線BRTはドラマで重要な役割を担いそうなのです。

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上記の記事では、NHKの提供写真として、モネと、登米市で知り合った医師の菅波光太朗がBRTのバスに同乗するシーンが出ています。

記事本文にあるように、菅波はモネと何らかの形でかかわり続けていくのでしょう。

その2人のツーショットとしてBRTの車内のカットが選ばれ、NHKから提供されたというのは、BRTが重要な舞台装置であることの証左と言えるのではないかと思います。

このドラマは、「海と山の繋がり」がテーマの1つになっており、序盤の話の中でもそうした内容が出てきます。

そのメッセージ性を強めるため、現実的にはあまり機能していないかもしれないけど、気仙沼線BRTという存在に海と山をつなぐ交通手段としての役割を託したのかもしれません。

それは、BRTを紹介するナレーションの、最後のこの言葉からもうかがうことができます。

『1時間半は少し長いけど、山と海が、つながっているのです』

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柳津駅のBRT待合室に置かれている木製ベンチは、ドラマの「米麻町森林組合」のモデルである登米町森林組合の製作

気仙沼線BRTは「あまちゃん」の北三陸鉄道のようになるのか

2013年に放送された、岩手県久慈市を主な舞台とした連続テレビ小説あまちゃん」。ここでは三陸鉄道が「北三陸鉄道」として登場し、ドラマの人気が、震災で被災した三陸鉄道の復旧にも寄与したと言われています。

気仙沼線BRTを北三陸鉄道と対比させる見方もありますが、鉄道が「町おこし」という主題の重要な要素だった「あまちゃん」とは異なり、背景を構成する装置の1つ、という位置づけにとどまると思います。

そして、それでいいと思います。

鉄道は主役を張れる力がありますが、バスには、よっぽど「バス」そのものを主題としない限り、主役を張るだけの力はありません。

でも、人々の暮らしの営みに寄り添って、しっかり走り続けている。

そういうあり方が、気仙沼線BRT(気仙沼~盛間の大船渡線BRTも含めて)には似合うのではないかと考えています。

BRTに愛着を持つ人が意外と多かった

ドラマでBRT路線が登場したことにいろいろな反応がありましたが、twitterで、例えば「モネ BRT」といった言葉で検索してみると、BRTの旅行の思い出や愛着を示すツイートが多く、鉄道から転換されたことのネガティブな面を主張するようなツイートは少数でした。

予想外にBRTに愛着を持つ人が多かった、というのが印象的でした。

最近、BRTが目の前を通る南三陸町震災復興祈念公園(志津川駅付近)や道の駅大谷海岸大谷海岸駅)にいると、近くに親子連れがいて、通り過ぎるBRTのバスを見て楽しんでいる光景を目にすることがあります。真っ赤な目立つボディ、そして多くの車両には自治体のキャラクターが描かれているという親しみやすい外観も寄与しているかもしれませんが、そうした姿を見て、BRTは鉄道に代わって立派に地域のシンボルになっているのではないか、などと思っていました。今回のドラマへの反応で、その思いを新たにしたところです。

BRTがドラマの「聖地巡礼」の場になる?

5月31日の回でも、BRTは重要な役割を果たしていました。

桃津駅を出てしばらく進むとトンネルを抜け、抜けた先には一面の海。その海を見て、モネは表情を曇らせます。モネが故郷に複雑な思いを抱えていることを示す印象的な場面でした。

現実に、陸前戸倉駅からトンネルを抜けるとすぐに志津川湾の眺望が広がり、気仙沼線の名景の1つとなっています。

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南三陸町志津川湾沿いを走る気仙沼線BRT。モネがBRTでトンネルを抜けた先に見た海。

上で紹介した車内の医師とのツーショットもいつか登場するでしょうし、気仙沼市内のBRTの駅が今後登場するという噂も見ました(もっと具体的に駅を特定する情報まで見ましたが、さすがにそこまでは書けません)。

そうしたシーンを追体験する場、いわゆる「聖地巡礼」としてBRTを利用する人が増えれば、沿線の賑わいにも繋がるかもしれません。もちろん、聖地巡礼が賑わうためには作品そのものの人気が重要なので、「おかえりモネ」のこの後の展開次第ではありますが、とりあえず登米市には、登米町(米麻町)~気仙沼線BRT~大島(亀島)という周遊ルートを構築するため、登米町柳津駅を結ぶアクセスの強化を期待したいところです。

次回、「桃津駅」も含めて登米市のロケ地巡りをしてきました。柳津駅の窓口の方に伺った話なども載せています。

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*1:2021年の現在は正式にBRTでの復旧となり、鉄道は廃線となっていますが、ドラマの時代設定である2014年時点では、あくまで「仮復旧」の位置づけで、鉄道での復旧については検討中という状況でした。