君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

障害復旧時の見通しの出し方について-JR西日本の豪雨災害の事例から

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昨年の豪雨災害から立ち直り、活躍を続けるJR西日本の車両

最近、事故や災害からの復旧見通しについて、当初の見通しから何度も後ろ倒しになっていく事例が立て続けにありました。

  1. 9月5日、京浜急行本線の神奈川新町駅付近で発生した踏切事故。
    踏切で立ち往生したトラックと衝突した列車3両が大きく脱線。当初、京浜急行は復旧見通しについて6日夕方を目指すとしていましたが、それは「7日始発から」「7日昼頃」とずれ込み、実際に運転を再開したのは7日の13:30頃でした。
  2. 9月9日、千葉市付近に上陸した台風15号の影響で首都圏の鉄道は大きな被害を受けました。前日にJR東日本は「首都圏すべての路線で8時頃まで運転を見合わせる(一部路線では9時もしくは10時、あるいはさらに遅い時間)」と発表。しかし、その時間通りに再開できた路線はほとんどなく、路線によっては再開見込みが9時、10時…とズルズル後ろ倒しになったり、当日18時ごろとアナウンスしていたのが19時になり、やがて終日運転見合わせになったりしたところもありました。
  3. 同じ台風15号によって、主に房総半島が甚大な被害を受け、90万件以上に上る大規模な停電が発生しました。東京電力は翌日、復旧見通しについて「11日中」と発表し、その翌日には「13日以降」、やがて「地域によって最長で27日ごろ」とこれもどんどん後ろ倒しになっていきました。

そのたびに、こうした復旧作業の見通しを立てるのがいかに難しいか、ということが下記の記事のように語られるのですが、最初からビシッと見通しを立てられるか、ズルズルずれ込んでいくか、どっちがいいかといえば前者がいいのは自明な話です。できるだけそれが実現できるよう、各事例を教訓としていくべきではないかと思います。

www.sankei.com

その点、見事に収束まで持っていったと印象深く記憶しているのが、昨年7月、中国・四国地方の集中豪雨で甚大な被害を受けたJR西日本の対応でした。

記憶していた限りで言えば、発表していた運転再開予定から後ろに倒れることは全くなく、むしろどんどん前倒しで再開していったはずでした。

その辺、実際にどうだったかが気になったので、JR西日本ニュースリリースから、路線ごとのアナウンスの変遷をまとめてみました。

www.westjr.co.jp

路線ごとのアナウンスの経過

ここでは、豪雨が終息した3日後の2018年7月11日、JR西日本が長期間の運転見合わせが予想される区間として挙げた路線や区間に絞って、その後の経過を追ってみました。

www.westjr.co.jp

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山陽本線(三原~広島間)の復旧見通しの経過

まずは山陽本線(三原~広島間)から。この付近は特に甚大な被害を受け、山陽新幹線での代替輸送なども行われていました。

表のうち、縦の日付はニュースリリースの発表日。JR西日本、もしくは広島支社が発表したものを参照しています。

上の駅名は、対象となる区間。例えば2018/7/18の行であれば、海田市~瀬野間が「8月中旬」、瀬野~三原間が「数か月~年内」という発表でした。

青字はそれまでより前倒しになった内容。赤字に黄地は運転再開(赤字のみは、本数を制限するなどの暫定的な運転再開)を示します。

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山陽本線(広島~徳山間)の復旧見通しの経過

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呉線の復旧見通しの経過

最後の行の日付欄が「-」になっているのは、ニュースリリースには運転再開完了のアナウンスが掲載されていなかったため、Wikipediaなどの資料で確認したものになります。

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岩徳線の復旧見通しの経過

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伯備線の復旧見通しの経過

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姫新線の復旧見通しの経過

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因美線の復旧見通しの経過

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福塩線の復旧見通しの経過

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木次線の復旧見通しの経過

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芸備線の復旧見通しの経過

最後に残っているのが芸備線の狩留家~中三田間ですが、これも1年前に出したスケジュール通り、今年10月23日に運転再開予定となっています。

最初は粗く、だんだんと詳細へ

この出し方を見ていると、あることがわかります。

まず、7/11(災害から3日後)の時点では「1か月以上はかかります」という形で出す。その先どれだけかかるかはまだわからないけど、とりあえず長期化することだけはわかります。

もちろん、数日で復旧したような個所はこの他にたくさんありました。

次に、7/18の発表では、「8月中(8月中旬、8月上旬なども含む)」「数か月~年内」「長期間」の3区分で出す。

以降、3か月単位、1か月単位、旬単位、そして再開日確定、と見通しが立つにつれて段々細かくしていくわけです。

また、日程が後ろ倒しにならずに前倒しになっていったのは、予め幅を持たせていたこともありますが、最初から希望的観測に基づく日程を出さなかった、ということだと思います。

特に山陽本線は東西の物流の要であり、その影響は当時大きく報道されていました。早期復旧のプレッシャーは凄まじいものがあったと思います。それでも、いたずらに口先だけで日程を早めることはせず、しかし工期を早める努力を着実に続け、日程の前倒しに漕ぎつけていたことが見て取れます。

 

この時、JR西日本がなぜ、日程を後ろに倒すことなく見通しを発表できていたのか。もちろん私は外野なので知る由もありませんが、災害対応の貴重な教訓として、他社にも参考になる事例ではないかと思っています。