以前からずっと続いていることではあるのですが、最近になって、鉄道ローカル線の経営難に関するニュースが世間を賑わせています。
さまざま伝えられることを見ながら、自分なりに考えたことをまとめておこうと思ったので、雑な内容ではありますが書き記しておきたいと思います。
鉄道ローカル線を巡る最近の動き
まずは、最近伝えられている主なできごとについてまとめておきます。
2020年7月の集中豪雨で被災したJR九州の肥薩線(八代~吉松間)について、JR九州が復旧費用の概算を230億円と提示したことを受け、現在、鉄道での復旧についてその可否も含めて検討が進められています。
建設中の北海道新幹線(新函館北斗~札幌間)の並行在来線に関しては、長万部~小樽間は鉄道を廃止し、バス転換とすることが決まりました。この区間の中でも、鉄道の輸送量が比較的多い余市~小樽間に関して、余市町は鉄道の維持を主張していましたが、最終的には道と小樽市・余市町での維持は困難と判断されています。
また、同じ北海道では、水害で運休が続いていた根室本線の富良野~新得間の廃線が決まりました。代替交通についての検討が進められています。
個別路線の話題だけではなく、国土交通省が中心となり、「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」……つまり、地域に適切な交通のあり方の検討を進める動きが始まっています。その中では、鉄道から別の輸送手段への転換ということが視野に入っています。
こうした中で、JR西日本が、輸送密度*1が2000人以下の区間の収支状況を公表したことが、沿線自治体に波紋を広げています。
中には、大糸線や芸備線、木次線のように、輸送密度が100人程度かそれ以下にまで落ち込んでいる線区もあります。
また、JR東日本も同様に地方路線の収支状況を公表することになりました。
先行きが問題になっているのはJR線だけではありません。たとえば千葉県の第三セクター鉄道・いすみ鉄道の苦境や、路線維持のための取り組みなどがとり上げられています。
鉄道が、事業者にも地域にも重荷になっている
こうした事例を見ていて感じるのは、採算が取れない鉄道ローカル線は、もはや事業者にも地域にも重荷になっている、ということです。
- JRのような広域交通を担う事業者としては、もう何が何でも鉄道にこだわる時代ではないし、地域にとってもっと柔軟で融通が利く交通手段に変えたっていいじゃないか、いつまでこの重荷を背負えばいいのか、と考えている。
- 単一路線を運営するための第三セクター会社(複数の路線を運行する会社もあります)は、鉄道を失うということは自らの存在意義を失うことであり、たとえ重荷であってもそれに耐えながら、今後も耐え抜いていく方策を考えなければいけないと必死になっている。
- 沿線地域の方は、鉄道を失うことの悪影響を恐れつつ、自分たちで背負うのもきつい。だから最終的には、なんとか事業者に維持してもらうか、かつての国鉄のように国に責任をもってほしい、と考えている。
本当に、この鉄道という重荷は誰かが背負い続けないといけないのか。荷を下ろして身軽になることはできないのか。そういうことを考えます。
赤字を誰が背負うかを考える前に
JR西日本が一部区間の収支状況を公表した際、その赤字額に注目が集まりましたが、一方で、
- 都市部や新幹線の黒字額に比べたら微々たるもので、それを見せないために、一部区間に絞って収支を提示しているのでは。
- 輸送密度が2000人以上の区間は赤字の割合が小さいとしても、全体の輸送量が多い分、赤字の絶対額が大きくなっている区間があるはず。輸送密度だけで区別するのはおかしい。
という意見もあります。
ですが、赤字額の多寡の前にまず考えるべきことは、「輸送密度が大きく落ち込んだ区間で、鉄道が本当に地域に必要なのか」ということです。
JR西日本が収支を公表するにあたって、以下の点を強調している*2ことが重要なのですが、そこが十分に考慮されていないケースがあるように見受けられます(アンダーラインは引用時に追加)。
鉄道は自動車に比べてきめ細かな移動ニーズにお応えできないこともあり、線区によっては地域のお役に立てておらず、厳しいご利用状況となっています。特に今回お示ししている線区については、大量輸送という観点で鉄道の特性が十分に発揮できていないと考えております。これらの線区はCO2排出の面でも、現状のご利用実態では必ずしも鉄道の優位性を発揮できていない状況にあります。
鉄道の特性が必要とされ、道路交通では代替が難しいような区間であれば、何らかの形で誰かが赤字を背負い、鉄道を支えることが必要でしょう。しかし、鉄道の必要性が乏しいのであれば、それを支える必要すらない。まずその点から考えていくべきです。
鉄道はなぜ必要なのか、誰がコストを負担すべきなのか
下記の資料には、「鉄道特性の評価について」という項目があり、どういったことが鉄道の特性として挙げられるかを列挙しています(太字は引用時に付加)。
第3回 鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会 補足説明資料(https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001478221.pdf)
①大量輸送機関としての鉄道特性
- 平均的に多くの旅客を輸送しているか(輸送密度)
- 輸送密度が低くても、
- 優等列車が走行するなど、全国ネットワークの一部として拠点間輸送を担っており、かつ、他モードと比較して輸送力・速達性・定時性等の点で十分な競争力を有しているか
- 鉄道貨物輸送のルートとして全国ネットワークの一部を担っているか
- 通勤・通学時間帯等のピーク需要に対応するために必要なバス等の車両台数・ドライバーの確保が困難又はコストが非常に高くなる、あるいは冬季等における鉄道並みの安定運行が困難なため、バス等への置き換えが難しいか
- 並行道路の整備が進んでおらず、代替交通手段の確保が困難か
- 環境負荷の観点で鉄道に優位性があるか(一人あたりCO2排出量の比較)※利用者が少ない場合は却って不利になることに留意②クロスセクター効果を含む鉄道特性
- ①の鉄道特性が十分に認められなくても、
- 鉄道が廃止され代替交通手段に置き換わった場合に、観光等の地域経済活動、まちづくり、教育、医療、福祉等にマイナスの影響があるか
これを別の観点で整理してみると、以下のようになるのではないかと思います。
- 地域にはさほど必要ではないが、優等列車や貨物輸送など、広域ネットワークの観点から鉄道の特性が必要である(かつ、他のモードに対して競争力がある)
- 代替交通手段へ転換することは不可能ではないが、諸般の事情でその整備が困難であり、現状は鉄道を維持することが最適である
- 輸送手段として鉄道である必要はないが、観光振興やまちづくりなどの観点で鉄道の存在が必要である
そして、この分類によって、そのコストを主にだれが負担すべきかが変わってくるのではないかと考えます。
1.の広域ネットワーク特性が重要であれば、地元負担とするのは適切ではなく、都道府県や国、あるいは列車の運行によって利益を得る鉄道事業者が主に負担すべきでしょう*3。なお( )内について、トラック輸送や並行路線バス、高速バスなどの他の輸送手段に対して優位性があるかという観点も必要です。
2.の代替手段の整備が困難という事であれば、それは鉄道事業者の責任ではないので、沿線地域がコストを負担して、鉄道事業者にお願いして鉄道を運行してもらうということになるのではないかと思います。もし代替道路が未整備であれば、その道路を本来誰が整備すべきなのか(国道、県道、市道などの区分の違い)によって変わってくる面もあると思います。
3.についても同様に、沿線地域が応分の負担をすべきだと思います。ただ、観光振興によって、外部からの誘客の増加等、鉄道会社が得る利益があるのであれば、それも考慮する必要があります*4。
1.~3.のどれにも該当するとはいいがたい、もしくはいずれかに該当するとしても維持するコストを負担するのが難しい場合、本当に他のモードに転換できないのかということを検討する必要があります。
この時重要なのは、「鉄道が公共交通のすべてではない」ということです。「鉄道がなくなると地域の足が失われる」といった意見がよく見られますが、地域の足を維持するのであれば、鉄道にこだわる必要はありません。むしろ、ニーズに合わせて柔軟に経路を設定できる道路交通の方が適性が高いはずです。
では、なぜ地域はそれでも鉄道という重荷を必要とするのでしょうか。
後編ではそのことを踏まえつつ、一つのケーススタディ的なものとして(万能な解決策というわけではありません)東日本大震災で被災し、鉄道敷をバス専用道に転換して導入された気仙沼線、大船渡線のBRTの事例について考えてみたいと思います。