近年、自然災害によって鉄道が運休に追い込まれるケースが相次いでいます。
その復旧にかかる時間はまちまちですが、中でも時間がかかるのが、川にかかる橋が落ちた場合です。
土砂をかぶったら除けばいい。地盤が削られたなら埋めればいい。被災の程度にもよりますが、やることはシンプルです。
橋が落ちた場合、まず川の流れが速い時期は工事ができません。また、元通り復旧するだけでは同じような水害でまた流されてしまうので、場合によっては橋桁を高くする、橋脚の本数を減らす、構造自体を見直すなどの改良が必要であり、その設計から始めないといけません。
さらには、自治体などによる河川改修が伴うこともあり、それを待っての復旧となることも長期化に拍車をかけます。
2019年の台風19号は東日本各地に大きな被害をもたらしましたが、今なお復旧が終わっていないのが、JR水郡線、阿武隈急行、上田電鉄です。
土砂流入などで被災した阿武隈急行は今年10月の全線運転再開を目指しています*1が、いずれも橋が落ちたJR水郡線は2021年夏頃*2、上田電鉄は2021年3月28日目標*3となっています。
8月下旬、復旧を目指す上田電鉄を訪ねましたので、その模様をお届けします。
上田駅から代行バスへ
上田電鉄は、上田~別所温泉間の別所線のうち、上田駅と、千曲川を越えた次の駅である城下(しろした)駅の間が不通となっていて、両駅間には代行バスが運転されています。
駅の西側の「温泉口」のロータリーに代行バス乗り場があります。上田電鉄のホームの入口からは階段を下りてすぐなので、乗り換えの手間にそんなに差はありません。
千曲川を渡るところでは、被災した状況も見ることができます。城下駅側の堤防が削られたことにより、橋桁が落ちてしまったのでした。決壊の恐れもある状況でしたが、緊急に土嚢を積むことでかろうじて食い止めていたのを憶えています。
堤防はしっかり修復され、残りは橋をかけ直すといった状況のようです。
復旧費用をどう捻出するかも問題になりましたが、この鉄橋を上田市の所有とし、その復旧に対して国が補助金を出す形で、実質的に97.5%の費用を国が負担する形となりました。
この仕組みを適用する際、以前は、路線全体を上下分離*4するのが前提と考えられていましたが、国が鉄橋部分だけの上下分離で適用可能と判断したことでスキームが固まったという経緯があります*5。
城下駅では駅前にバスが到着し、階段を登ればすぐに列車に乗れるようになっています。待っていたのは、上田電鉄名物の丸窓電車「まるまどりーむ号」でした。
上田駅側には、仮の車止め。そして黒のビニール袋で覆われた出発信号機。
代行バスから列車に乗り継ぐ場合、上田駅ではとりあえずバスに乗り、きっぷは城下駅で購入する形になります。
下之郷駅へ
前回、上田電鉄に乗車した時は、とりあえず終点の別所温泉駅まで行き、たった5分で引き返してきただけだったので、今回はもう少しじっくり見て回りたいと思っていました*6。
といっても、当日の午前中に急遽、上田電鉄に行こうと決めたので具体的なプランがあるわけではなかったのですが、とりあえず車窓に田園風景が広がる下之郷駅で下車しました。
線路沿いにはヒマワリが満開で、朱色に彩られた駅をさらに明るく演出していました。
臨時ダイヤでは、この下之郷駅で上下の列車の交換を終日行っているようです。
昼食の時間だったので、この駅付近で適当な店があればと思っていたのですが、ざっと見渡しても見つかりません。
しかし、別所温泉方面にしばらく歩いていくと、生島足島神社(いくしまたるしまじんじゃ)の境内にそば屋が見つかりました。
普通に歩けばだいたい5分ぐらいなのですが、この日はかなりの猛暑で、その道のりだけでもかなりヘロヘロになっていました。
注文したのは「真田そば」という、この地を本拠とした真田家に因んだメニュー。普通のそばつゆの他にクルミだれがついているのですが、このクルミが上田産とのことです。まろやかなタレと、砕いたクルミの食感が蕎麦とマッチしてなかなかグーです。
そしてなんといっても、何もつけずに食べてもソバの香りとみずみずしい食感が美味しい信州そば。味見程度にそのまま食べてみる人は多いと思いますが、何ならそばだけモリモリ食べても充分という感じすらします。
生島足島神社自体は、いろいろと風情があって、地元の方も多く訪れていたので見て回りたかったのですが、あまりに暑すぎて、列車の撮影後はさっさと下之郷駅に戻ってしまいました。
そばをいただいた後、付近で列車が撮れそうなところがないか探してみると、近くの踏切付近がよさそうでした。
下之郷駅まで乗車してきたまるまどりーむ号が、別所温泉から戻ってくるところを撮影。
元は東急からやってきたステンレス車ですが、窓の一部に型をはめ込んで丸窓とし、昔の紺とクリームのツートンを再現しています。
下之郷駅で交換した別所温泉行きの列車。こちらは東急そのままのカラーリングです。
上空を飛ぶ鳥の群れ。のどかな風景が素晴らしく、酷暑ではない時期にまた訪ねてみたいところです。
別所温泉駅へ、そして復旧を願う思いを見る
次の別所温泉行きに乗って終点まで行きます。さっき城下駅に向かったまるまどりーむ号が折り返してきました。
別所温泉駅では、観光駅長の女性の方が和服姿で出迎えてくれます。
こんな感じの風情あるラッチに立って出迎えていただけるわけです。絵にならないわけがありません(……といいつつ写真を撮ってないのはなぜ? ってなりますが)。
駅前に保存されている初代丸窓電車。
昭和2年ということは1927年製。阪堺電軌で現役の車両で1928年製のものがありますが、それと同世代ですので、なんとか本線を走れないのかなと思ってしまいます。
別所温泉駅は結構標高があり、上田市街地方面を見渡すことができます。温泉街はもっと高いところにあるそうなので、もしかしたらもっと素晴らしい眺望が開けていたりするのでしょうか。
付近には石窯で焼くピザ屋や甘味の店なども見え、すごく興味を惹かれるのですが、店に入っていると時間が無くなってしまうので断念。この日は夕方にしなの鉄道の快速「軽井沢リゾート」に乗る予定があったのですが、そういう予定を入れずに、上田電鉄だけでガッツリ訪ねてみたいところです。
右側のモダンな感じの駅舎と、左側のトタン屋根のホームが味わいを生み出している駅の全景。
表情が素晴らしい木彫りのクマ。
待合室に掲示された応援メッセージ。虹やトラス橋は折り鶴で作られています。別所線を応援する気持ちが伝わってきます。
まるまどりーむ号の車内には、別所線の復旧を願うポスターが掲示されています。
もともとは、沿線にある長野大学の鉄道研究会の発案で始まったプロジェクト。メッセージをもとにポスターを作成して掲出するというものでしたが、これだけ形になれば見事なものだと思います。
besshosenkakehashi.wixsite.com
経営効率だけ考えると難しい状況にあるローカル鉄道で、このように愛着を形にするというのは大事なことだと思います。それがあればこそ、国や自治体を巻き込んで費用を捻出することにもつながっていくのですから。
別所温泉駅に掲出されていたメッセージもそうですが、地域が鉄道を必要とし、それに応えて鉄道会社が災害に負けずに復旧を目指すという、ローカル線の一つの在り方を見ることができた経験でした。
なお、私はスルーしてしまった上田駅や城下駅の様子など、別の視点で詳しく書かれた記事もありますので、ご覧いただければと思います。