
- それだけでは問題点の把握が難しい2つの記事
- 「スマホの位置情報」だけに依存した調査の限界は?
- P&Rのテコ入れの要否は、大阪市内の交通量に影響が出ているかどうか
- 調査や取材の結果を正しく理解するために
それだけでは問題点の把握が難しい2つの記事
今回は下記の2つの記事についてです。
どちらも、大阪・関西万博の運営上の課題を指摘したものですが、ともに「それだけでは問題点の把握が難しい」という特徴があり、他の調査結果と合わせて考える必要があるものです。
このような断片的な情報だけで、軽々しく結論を出すのは慎むべきだろうと思います。
読売の方は、記事の埋め込みに表示されているグラフの通り、スマホの位置情報を分析する会社の調査結果より、「来場者の3/4以上を50代以上が占めている」というものです。
また、共同の方は、来場手段のうち自家用車で来場する人向けに、大阪市(万博会場の北にある舞洲)、堺市、兵庫県尼崎市に設けたP&R(パークアンドライド)駐車場の利用が低調だというものです。
「スマホの位置情報」だけに依存した調査の限界は?
読売の記事にある調査については、以下のように書かれています。
開幕の13日から24日までで、会場内に滞在した人(スタッフを含む)のデータから性別・年代別の割合を推計した。70代以上は35%、60代は22%、50代は19%と高い割合を占める一方、20代は5%、30代は6%にとどまった。男女別では男性が45%、女性が55%だった。
この年代別の割合、特に70代以上が35%というのが、5度会場を訪ねた私の実感とまったく合わないので、本当にこの調査は信頼できるのか? という思いが先に立ってしまいます。
この調査を行ったクロスロケーションズ社のサイトで、他に公開されている調査結果などを見る限り、そこまで信頼できないわけではないように見えますが、母数、同社が把握しているデータと実際の分布との偏りやその補正方法など、統計の信頼度として必要な詳細が全く分かりません。
まあ、その辺は企業秘密に属する事項かもしれないので、具体的な商談でもない限り一般に公開できないということもあるとは思います。
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一方で、この結果だけで課題を把握できるわけではありません。
「来場者を増やすには、子育て世代の呼び込みがカギを握りそうだ」と読売は指摘していますが、それはいささか軽率なように思います。いくつか、この調査には実態を把握するための限界があるように考えられます。
関係者と一般の来場者を分離できていない
まず、関係者と一般来場者が分離されていないということがあります。スマホの位置情報だけではそこを識別できないので、当然限界があります。
関係者の年齢構成は一気に変えられるものではないし、会場の警備や設備管理、清掃などに高齢者が活躍しているとしてもそれは問題ではありません。課題を正確に把握するためには、関係者と一般来場者の分離が不可欠です。
そのためには、万博協会が把握しているであろう、万博IDに紐づいた来場傾向とも突き合わせて検討する必要があると考えられます。
年齢別の生活実態による偏りが考慮されていない
次に、日別の来場者の傾向がわからないということがあります。誰でも考えることとして、平日は現役世代は仕事をし、学生は学校に行っているので、当然来場は難しくなります。平日は高齢者の割合が高く、土曜・休日は若い世代の比率が比較的高くなるという傾向は考えられます。そうだとすれば今後ゴールデンウィークや夏休みなどで若い世代の来場が見込める可能性が高いため、現時点での調査結果に一喜一憂する必要はないとも考えられるかもしれません。
そもそも万博というコンテンツが高齢者向けなのでは
さらに、万博というコンテンツの特徴も考慮する必要があります。
個人的な印象として、若い人にはやはり万博よりUSJの方が向いていると思います。私も子供の頃、大阪市の鶴見緑地で行われた「花と緑の博覧会」に連れて行ってもらったことがありますが、大半のコンテンツは何をやっているのかよくわからず、立ち乗りジェットコースター「風神雷神」のようなライド系のアトラクションだけ楽しんでいた気がします。テーマ曲を歌っていたTHE ALFEE(これもその頃は知らなかったけど)の甲高い歌声が妙に記憶に残っています。
もちろん、若い人でも今回の万博を楽しんだ人、学びがあったという人はたくさんいると思いますが、今回はアトラクション目的のライド系の設備がないということもあり、若干高年齢層向けの内容になっているのではないかという気がします。
このあたり、例えば可能であれば過去の愛知万博と比較してみるとか、年代別に人気のコンテンツ(パビリオンの他、イベントも含めて)を把握するとか、より詳細な分析が必要だと思います。
これまで挙げたような詳細な分析は、例えば政治であれば、年代別の政党支持率とか、主要政策に対する年代別の評価とか、支持政党別の政策への支持率とか、当たり前のように行っていることです。なぜ万博について、信頼性も正直微妙な1項目の調査だけで結論を出そうとするのでしょうか。
P&Rのテコ入れの要否は、大阪市内の交通量に影響が出ているかどうか
共同通信の記事は、この内容だけであれば2つの見方が成り立ちます。
一つは、多くの人々が自家用車を使わずに公共交通での来場を選択しているので、P&R駐車場が活用されていない、という見方。これであれば、一般的には望ましいとされる方向だと思います。むしろ、Osaka Metro中央線の大増発、JR西日本桜島駅からのシャトルバスの頻発などのアクセス整備が功を奏しているとも考えられます。
記事の最後に、「中央線は東口、P&Rは西口から入場するため、開幕日は、西口が数分で通れた時間帯も東口は約1時間かかったという。」と指摘していますが、これはとても不十分な理解です。
開幕日は、西ゲート前に到着する桜島駅からのシャトルバスで特に混雑することが見込まれたため、「西ゲートの予約であっても東ゲートからの入場を認める」という特例措置が採られたのです。このことが東ゲートへの集中を招いた可能性を考慮する必要があります。
また、開幕日に東ゲートで入場に時間がかかったのは、スマホがネットワークに繋がらないというトラブルが発生し、スマホでQRコードを表示させるのに時間がかかって入場に手間取ったというのが一因でした。翌日には移動基地局を増設し、QRコード表示用のWi-Fiを新設するという運営側の対策が行われたことや、あらかじめQRコードをスクリーンショットしておくという利用者側の対策が周知されたことで混雑は次第に解消しています。
東ゲートはこのゴールデンウィークの期間中、これまでよりも予約枠を増やしています。つまり、東ゲートの処理能力に問題が出ているという状況ではありません。
記事が指摘するように、将来、もっと来場者が増えた時にどうするんだ、という懸念はあり得ると思います。でも、そういう状況になって地下鉄がパンパンになり、実はP&Rが空いているということがわかれば、自家用車が使える人は自然にP&Rに転移していくのではないかと思います。来場者は何も考えていないわけではなく、いろんな情報をもとに判断ができるからです。
ただし、別の見方もできます。自家用車で来場する人が、P&Rを利用せずに、大阪市内のどこかの駐車場に停車して地下鉄などで会場に向かっているというパターンが増えているのではないか、ということです。
このことで懸念されるのは、大阪市内への自家用車の流入量が増加し、交通渋滞が発生したり、付近の駐車場が利用しにくくなるという事態です。
こういった事態が起こっているのであれば、P&Rの利用を促すため、たとえば料金の引き下げや、シャトルバスの増発などの対策を講じる必要があります。
ですので、大阪市内の交通量の変動や、Osaka Metro中央線沿線の駐車場の利用状況といった調査も必要になります。これらの調査で悪影響が出ていて、記事にある通り「主催者は危機感を募らせる」のであれば納得できます。共同通信の記事はそういったあたりの掘り下げが不十分だと言わざるを得ません。
調査や取材の結果を正しく理解するために
読売新聞が記事にした民間企業の調査結果や、共同通信の取材をもとにした記事は、それ自体は事実だと思います。ただ、現状をどう理解するかという点ではいろいろと不足している面もあります。
各メディアには、読者の理解の助けとなるような追加取材を行って、掘り下げていただけることを期待しています。