
トリコロールに彩られた美しいパビリオン。入場まで45分
大屋根リング内、東ゲート側の「光の広場」に位置するフランス共和国パビリオン。
向かって右側にはアメリカ合衆国パビリオン、フィリピンパビリオンが並び、三者三様のパビリオンが東ゲート側の景観を作り出しています。
その中でも、ベールで装飾された外観を国旗と同じ赤・白・青のトリコロールで彩ったフランスパビリオンは洗練された美しさが際立ち、芸術の国として存在感を誇示しています。


外観の色はさまざまな色に変わることがあります。上記の画像の青と赤の他、金色のような色になったりもします。
フランスパビリオンは事前予約が一切なく、先着順で入っていきます。光の広場の向かって右半分はアメリカパビリオンの待機列が形成され、左半分はベンチや子ども向け遊具のスペースを縫うように蛇行してフランスパビリオンの待機列ができています。
9月3日の18時半過ぎ、その長い待機列の最後尾を探して並んだら40分待ちとのことでした。最後尾はパビリオンから遠く離れていた場所でしたが、どんどん進んでいき、45分ほどで入ることができました。最後尾の待ち時間表示は少し後には50分に変わっていたので、まあだいたい表示通りと言ってよいと思います。
フランスパビリオンではさまざまな作品の説明をQRコードで読むことができ、下記ページからリンクをたどっていったところにあるページが表示されるようです。
項目によっては、全文読んでも何を言っているのかさっぱりわからないものもあります。ただ、展示内容について理解を深める上で役に立つと思います。
もう少しわかりやすいものとしては美術手帖の記事があります。
愛の讃歌と運命の赤い糸、そして鼓動
フランスパビリオンのテーマは「愛の讃歌」であり、そのモチーフに「運命の赤い糸」を用いています。赤い糸の伝説は中国起源で日本ではよく知られていますが、フランスでは知られていないそう。日本で開催する万博ということで、あえて日本で知られた題材を用いたようです。
外部には、1組の男女の像がいくつか置かれていますが、いずれも男女が赤い糸で結ばれて表現されています。



鼓動ともののけ姫とキメラ像
パビリオン内部に入り、最初に目にするのが、赤い糸で描かれた脈動であり、そこに「鼓動」の文字が描かれています。

次に進んだスペースで展示されているのは、ノートルダム大聖堂の火災から難を逃れたキメラ(複数の動物が合体したような想像上の生物)像と、アニメ「もののけ姫」の一場面を描いた巨大なタペストリー。タペストリーと言われても、間近で見なければどうやって作られているのかよくわからないぐらい精巧です。
災難から逃れた像と、日本のアニメを題材にしたタペストリー。この2つが並んで展示されている理由は、いろいろ解釈のしようはあるのかもしれませんが、正直よくわかりません。ただ、この後どんどん深い世界観に入り込んでいくことを考えると、導入として軽めの展示を置いたというニュアンスはあるのかもしれません。

その次の部屋では、無数のLEDをドットのように配置した壁面が、鼓動のように明滅を繰り返すインスタレーション。
ここから本格的にパビリオンの世界観へ誘われていく、という感じの場所でした。

ルイ・ヴィトンのトランクをモチーフとした作品
その次の部屋が、初期のころから話題になっていたルイ・ヴィトンのトランクによるインスタレーション。トランクは1個で高さ1mぐらいある巨大なものです。天井は鏡面になっていて、実際よりも高い空間に見せています。トランクの一部に設けられたスクリーンには、ルイ・ヴィトンのものづくりが描かれています。



その次の部屋では、球形に組まれたトランクがゆっくりと回転しつつ、プロジェクションマッピングでさまざまな映像が映し出されます。トランク群を地球に見立てているような感じです。
トランク自体には柄はありませんが、プロジェクションマッピングでルイ・ヴィトンの柄が映されます。そして、幻想的な色彩から宇宙、地上、水中などさまざまな映像が展開していきます。





Pas-de-trois
フランス語で「pas de trois」とは、バレエにおいて3人の役者によるダンスを指すそうですが、次の部屋では、男性2人、女性1人によるダンス映像が上演されています。
パリの文化施設「ポンピドゥーセンター」の屋上で撮影されたというダンスは、広がるパリの街に対して人間の存在、人間の生命といったようなものを強烈にアピールしているような感じでした。
フランスパビリオンのテーマである「愛の讃歌」、そして万博のテーマに通じる「躍動する生命」のようなものが表現されていたのかな、と感じました。それは美辞麗句ではなく、彩度を落とした映像で表現されていたのは、希望も欲望も愛も葛藤も、全部込みでの生々しい人の姿だったのかな、という気がします。




奇跡の庭
Pas-de-troisの部屋を出た先の通路は、森の中に分け入っていくような演出が施されており、そこを抜けると、「奇跡の庭」と名付けられた屋上の庭園に出ます。



ずっと人間を表現してきた中で、ここで初めて自然と目の前で対峙することになります。
展示の途中に屋外空間があり、そこに静かな水盤があるというのは日本館と共通する構成で、演出の意図としては似ている部分もありそうですが、前後の文脈を考えると表現したいものは違うのだろうなという気がします。
葡萄の収穫と恵み
奇跡の庭を出て、地中深くに分け入っていくような通路を抜けると、葡萄をイメージしたオブジェが置かれた部屋に出ます。
人間の姿を描き、奇跡の庭で自然と対峙し、そして人と自然のかかわりを葡萄とワインを通して描く。現場では次々と繰り出される様々な芸術にひたすら晒されるままになっていましたが、こうして振り返ると、ちゃんと一つのシナリオがあるということが見えてくるように思います。






ディオールによる美しく華やかな空間
次の部屋はディオールによるドレスやスーツなどで彩られたインスタレーションです。
それぞれの文脈とかは抜きにして、空間全体の華やかさに圧倒されます。
一見これまでと脈略がないようにも見えますが、アルザスワインの歓びを表現した後に次にこう来るのはなるほどなという感じもします。






この展示についてはディオールのサイトにも紹介があります。が、読んでもさっぱり理解できませんでした。
DIOR | Dior Booth at Osaka Expo 2025 - news-savoir-faire - Fashion & Accessories
フランスと日本の縁
最後の空間では、様々な形でフランスと日本の縁が描かれています。

ともに火災で焼け落ちた、ノートルダム大聖堂と沖縄の首里城。建造物が精巧に表現された模型に目を奪われますが、あくまで主題はそれぞれに由来する展示物の方であるようです。



奇抜な構図で当初から話題となったモン・サン=ミシェルと厳島神社の大鳥居。孤島にある信仰の場という共通点があります。
ここで用いられているしめ縄は、厳島神社に奉納されている実物のようです。

最後に展示されているのは、フランス領ポリネシアの神話上の動物「ピイホロ」と、沖縄のイリオモテヤマネコの像。自然の保護、再生のシンボルとして展示されています。
この空間、本来は上部のスクリーンにも関連する展示があったようなのですが、模型の方に目を奪われて見れていませんでした。
パビリオン各所に配置されたロダンの「手」の作品
入口から順に紹介したパビリオン内の展示は以上になるのですが、忘れてはいけない存在として、パビリオン各所に配置された、ロダンによる「手」の作品があります。




冒頭に挙げた美術手帖の記事が「なぜロダンの彫刻を展示するのか?」というテーマを提示しているように、人間の活動の重要な部分を担う「手」こそが、このパビリオンのテーマを象徴していたのではないかと思います。
あくまで「人間」を主役に据えたフランスパビリオン
赤い糸で結ばれた男女の裸像、ルイ・ヴィトンやディオールのものづくり、3人のダンサーの絡み合うようなダンス、自然との対峙と共生、ロダンの「手」の作品、そして生命の象徴とも言える「鼓動」の表現。
フランスパビリオンは、意識的に「生身の人間」を描く内容に徹したように見えます。
「いのち輝く未来社会のデザイン」という万博のテーマに対して、未来を創るのはあくまで命ある人間だ、ということを高らかに謳いあげるような、そんなパビリオンだったのではないかと思います。
隣にあるアメリカパビリオンが、「ともに何を創造できるか思い描こう」という美しいフレーズを掲げ、技術革新や宇宙開発といった技術面を主題に据えたのとは好対照で、その点でも興味深いパビリオンでした。