4月13日に開幕した大阪・関西万博。
期間中いつでも入場できる「通期パス」を買ったので、こまめに訪ねていろいろと巡りたいと思っています。
9度目の訪問は5月11日の日曜日でした。この日は朝から晩までできごとが多く、1つの記事でまとめて書くのが難しかったので、先に国内編の記事を書きました。
主な内容は以下の通りです。
- 「大阪ウィーク~春」での大阪狭山市、堺市のイベントの一部
- 「ブラスエキスポ2025」の一部
- シグネチャーパビリオン「EARTH MART」
- 関西パビリオン、特に和歌山ゾーンの「Wakayama森と恵みのペアリングセット」
今回は海外編になります。
- 次回認定博のテーマ「遊び」を掲げたセルビアパビリオン
- チーズパイ、ミートパイが美味しい。セルビア館内レストラン
- 民衆運動を強く打ち出したバングラデシュパビリオン
- 昨年8月に成立した暫定政権。「民衆の暮らし」を表現していたバングラデシュのカントリーデー
- 5月11日(海外編)のまとめ:未来を創る力となるものは。セルビアとバングラデシュの共通点と違いと。
次回認定博のテーマ「遊び」を掲げたセルビアパビリオン
この日は10:15ごろ入場した後、11時に予約していたセルビアパビリオンへ。
予約ができる海外パビリオンはだいたい予約なしでも入れます。しかし、予約なしで待つ長い列の横をスルっと抜けて入っていけるので、予約できるならする方がいいと思います。
外観を彩る緑が特徴のセルビアパビリオンですが、環境問題を強調するとかではなく、テーマは「Society of Play」(遊びの社会)となっています。
これは2027年にセルビアのベオグラードで開催する国際博覧会のテーマ「Play for Humanity」と関連していて、どうやら、「遊び」とは個人やコミュニティの成長や回復に繋がる究極的な行為だ、というコンセプトを掲げるようです。単に子どもの遊びではなく、芸術やスポーツといったことも含まれるようです。
いろいろとインタラクティブな仕掛けがありましたが、実際に遊ぶのは子どもたちに任せて、一通り展示を見て出てきました。
ピタゴラスイッチみたいな仕掛けもありましたが、最初に球を転がすと途中からは大型スクリーンの映像になり、最後に映像に合わせてポロっと球が出てくるっていうのはなんか違うような気がしました。でも、そのスクリーンの一部にある、セルビアの著名なスポーツ選手や芸術家、「遊び」に関する考え方などが、本来提示したいことなのでしょうね。




チーズパイ、ミートパイが美味しい。セルビア館内レストラン
セルビアパビリオンにはレストランが併設されているので、そこで昼食をいただいていくことにしました。10人ほど並んでいましたが、まだ11時過ぎだったので割と回転が早く進みました。
注文したのは以下の5品でしたが、どれも美味しく、東欧らしい味わいを感じられてよかったです。
- Pita sa Sirom(ピタ サ シロム/780円)…チーズパイ。
- Pita sa Mesom(ピタ サ メソム/780円)…ひき肉のミートパイ。香辛料の使い方が東欧らしい感じの味付け。あえて言うならピロシキに近いかも。
- Ćevap(チェヴァピ/480円)…肉団子のグリル。香辛料などで味付けし、親指大に成型した合挽き肉を焼いたもの。
- Yogurt Salata(ヨーグルトサラータ/780円)…プレーンヨーグルトと数種の野菜のサラダ。2種類あって、トマト&アボカドを選びました(確かもう1種類はトマト&キュウリ)。
- Vanilice(ヴァニリツェ/300円)…別途、テイクアウト用に売られているお菓子。クッキーみたいな食感を想像していたのですが、口に入れた途端に何の抵抗もなく溶けていく、やわらかい生地のジャムサンドでした。
民衆運動を強く打ち出したバングラデシュパビリオン
この日はバングラデシュのカントリーデーであり、夕方にカントリーデー式典を見たのですが、それに関連して、5月6日に見たバングラデシュパビリオンのことを先に書いておきたいと思います。
バングラデシュは「ナショナルデー」ではなく「カントリーデー」と称しています。これはなぜかはよくわからないのですが、バングラデシュでは独立記念日の3月26日をナショナルデーと定めていることとも関係があるのかもしれません。
なお、「国」に相当する英語としてnationもcountryもどちらも用いられますが、nationが「国民」「国家」というニュアンスが強いのに対して、countryが「領土」「地域」といった地理的な要素を指すニュアンスが強いといった違いがあります。
日本において、バングラデシュについて有名なのは「国旗のデザインが似ている」ということだと思います。日本の国旗が白地に赤の日の丸なのに対し、バングラデシュのそれは地が緑という違いだけです(もしかしたら赤の円の大きさとか微妙に違うのかもしれませんが)。




バングラデシュパビリオンの特徴は、反抑圧運動についての展示があることだと思います。象徴的なのは「INDOMITABLE YOUTH SPIRIT」と題された文章で、1952年の母国語回復運動、1971年のパキスタンからの独立とともに、昨年7月、反政府運動によって政権交代が行われたことを挙げています。
このへんWikipedia*1を見てみると、昨年の反政府運動は、「独立運動を戦った退役軍人の家族に公務員採用枠の3割を割り当てる」という制度を廃止することが2018年に決まっていたものの、それを最高裁が違憲として取り消したことがきっかけでした。退役軍人の家族を優遇することが、独立運動を母体として長期政権を維持する与党や首相の利権となっているとみなされていたようです。
ただ、それが政権交代にまで繋がったのは、反対運動に対して首相が侮蔑的と受け取れる発言をした*2ことが一因であったようです。反政府運動は多数の死傷者を出しながら激化し、およそ20日後の8月5日に首相は辞任して国外へ脱出。反政府運動が主体となって暫定政権が樹立されました。この間の1ヶ月で約650人の死者が出たとされています。
つまり、大阪・関西万博に出展しているのはこの暫定政権ということになるので、その正統性を主張する内容が展示にも反映されているということなのでしょう。


運動への参加を呼び掛けるものと思われるポスターには、いくつか日本の漫画のキャラクターも描かれています。その良し悪しはともかく、日本の漫画が、こういった形で利用されるほどに浸透しているということの表れであろうと思います。
いくつかのポスターに「July 36th」という日付が書かれていますが、これは、昨年7月に運動が始まり、首相が退陣した8月5日を「7月の36日目」として呼んでいるようです。
なお、これに関してさらに興味深く感じたことがありました。バングラデシュは「人民共和国」であり、国家元首は大統領です。大統領は国会での選挙で選ばれますが、日本の天皇のように政治に対する実権を持たない象徴的存在です。
昨年7月のような激しい反体制運動に対しては、軍が抑圧のために行動し、諸外国の介入も招いて内戦のような事態に陥ることも少なくありません。しかし、この件では軍は抑制的に行動し、首相が辞任した際には暫定政権の樹立に大きな役割を果たしたようです。これは、あくまで首相に対する反対運動であり、象徴としての大統領には影響がなかったことが大きかったのではないか、と考えたりしました。
昨年8月に成立した暫定政権。「民衆の暮らし」を表現していたバングラデシュのカントリーデー
5月11日、16:30から始まったカントリーデー式典では、日本側からは大串正樹経済産業副大臣が挨拶。バングラデシュからは、シェイク・ボシール・ウッディン商業担当顧問(商業・繊維・ジュート・民間航空・観光担当)の挨拶がありました。現在の暫定政権では顧問は大臣に相当し、首相に相当するのが首席顧問となっているようです。
経済関係を軸に両国関係を発展させたい、特にバングラデシュ側は対外投資を呼び込みたいという意図が強く出ていた挨拶でした。


続いて披露されたステージは、民族音楽に現代のポップスやロックを融合させたようなバンドによるパフォーマンス。特にリーダーと思われるギタリストの方が、曲によっていろんな役割を器用にこなしていたのが印象的でした。
背景の独特の絵柄によるアニメーションでも、自然や農耕、漁業と言ったような民衆の暮らしが描かれていました。
そういった特徴から、音楽的には、最後はみんなで一緒に踊ろうという感じで、同じフレーズを何度も繰り返して盛り上がっていく終わり方が多く、こういった式典会場で座って聴くよりも、どこか屋外のステージで演奏される方が似合っていたような気がします。
出演者がジーンズなどのラフな衣装だったことも含め、今のバングラデシュの根幹となっているであろう「若者の力」をアピールするような演出になっていた感じでした。






5月11日(海外編)のまとめ:未来を創る力となるものは。セルビアとバングラデシュの共通点と違いと。
最初はあまり共通点がないように感じていたセルビアとバングラデシュですが、こうして記事として整理してみると、セルビアは「遊び」を通して子どもの可能性に着目し、バングラデシュは昨年の政変も踏まえ「若者の力」に焦点を当てていたというところに、それなりに共通点が見えるような気がします。
セルビアの場合、第二次世界大戦後も東西冷戦や民族自立の動きの中でさまざまに変遷を遂げてきたという歴史についてはあまり描かれていないのですが、バングラデシュの場合は、今の政権の正統性をアピールする意味でも、若者の力に焦点を当てているということもあるのでしょう。
何気なく万博会場を巡り、ふと気になる展示などに出会ったら、後で調べて学びを得るのも万博の一つの楽しみ方だろうと思います。