4月13日に開幕した大阪・関西万博。
期間中いつでも入場できる「通期パス」を買ったので、こまめに訪ねていろいろと巡りたいと思っています。
9度目の訪問は5月11日の日曜日。この日は朝から晩までできごとが多く、1つの記事でまとめて書くのが難しかったので、国内編と海外編に分けて書こうと思います。今回は国内編になります。
海外編は下記の記事をご覧ください。
- 10時入場を目指して
- 大阪狭山市のステージで、将棋の女流棋士のトークショーを見る
- 会場内で広がる吹奏楽の演奏
- 抹茶のふるまいと大阪交響楽団トロンボーン奏者のステージ
- 現代的な茶の湯の世界へ
- 「いただきます」の意味。食といのちを考えるEARTH MART
- 極上の食のアートでした。和歌山ゾーンの「Wakayama森と恵みのペアリングセット」
- 観光誘致の圧が凄い関西パビリオン
- 5月11日(国内編)のまとめ:「未知なる体験」をどう提供できるか
10時入場を目指して
この日は最初のパビリオン予約が11:00でした。移動時間も考慮して、これまで通う中で初めて、10時すぎという早めの時間での入場を目指して列に並ぶことになりました。
9:40ごろに夢洲駅を出て、柵で仕切られた一般入場用の通路を進むと、やがて9時入場予約、11時予約用の通路が分岐していきます。そして、その先にある10時予約のスペースで待機します。
9:50ごろに10時予約の入場が始まり、ゲートを通過できたのは10:15ごろでした。
午前中は入場予約の時間帯が9:00~、10:00~、11:00~、12:00~と区切られていますが、今のところ指定した時間から1時間以内には入場できるというオペレーションができているので、朝一番を目指すとかでなければ早く並ぶ必要がないという安心感はあります。
並んでもいつ入れるかわからない、という状態だと列ができるのがどんどん早くなっていき、例えば朝6時とかから長蛇の列ができることになります。そういったことは回避できているのかなと思います。
大阪狭山市のステージで、将棋の女流棋士のトークショーを見る
午前中は予約していたセルビアパビリオンを見て食事をした後、正午からは大阪ヘルスケアパビリオンへ。パビリオンのステージでは、「大阪ウィーク~春」の企画として、自治体などによるステージが行われていました。この日は大阪狭山市のステージ「Osakasayama Ryujin Stage」で、市の特命大使や、市内で募った団体のパフォーマンスが朝から夕方まで行われていたようです。
12:15からは、将棋の女流棋士である室谷由紀女流三段と西山朋佳女流三冠による、古川市長も加わってのトークショーでした。西山女流三冠は最近、プロ棋士となるための編入試験に挑み、2勝3敗で合格できなかったということが報じられていたので、ご存じの方もおられると思います。
将棋は今はたまにプロの将棋をAbemaTVで見る程度ですが、昔は結構ガッツリやっていて、実は大阪狭山市で、女流棋士のお二人が最初に将棋を覚えた教室とも少しだけ縁がありました。私が縁があった時期よりはだいぶ後になりますが、お二人からその教室の様子を色々と伺えて楽しかったです。


会場内で広がる吹奏楽の演奏
次に堺市のステージや展示に向かいますが、その途中、ポップアップステージでNTT西日本大阪吹奏楽団の演奏が行われていて、ちょっと時間があったので聴いていきました。


この日は、会場で吹奏楽の祭典「ブラスエキスポ2025」が開催され、朝には多くの吹奏楽団が結集して約12,000人のマーチでギネスを目指す、という挑戦が行われていました。その後はいくつかの海外パビリオンや、会場内のポップアップステージで演奏が行われていたようで、あちこちから吹奏楽の演奏が聞こえてきていました。また、演奏を終えた人は一般来場者として、パビリオンなどを楽しんでいたようです。
抹茶のふるまいと大阪交響楽団トロンボーン奏者のステージ
堺市がイベントを行っていたポップアップステージ南では、無料で抹茶のふるまいをいただくことができました。堺は千利休が生まれ、生涯を過ごした地として知られています。
ステージでは、堺市に拠点がある大阪交響楽団のトロンボーン奏者矢巻正輝さんと、ピアニストの田中咲絵さんによる演奏が行われていました。
有名な曲がいくつか披露されたほか、ブラスエキスポと同日で吹奏楽の人が多いということを考慮し、最後の曲を吹奏楽でおなじみの「宝島」という曲に変更したそうです。
トロンボーンは長いスライドを前後に動かして音程を調整するという構造上、16分音符などの細かい音符が続くフレーズは比較的苦手な楽器なのですが、そんなハンディをものともしないプロの超絶技巧を聴くことができました。


現代的な茶の湯の世界へ
ポップアップステージ南の隣にある「ギャラリーEAST」では、同じ堺市による展示があり、さまざまな現代的な茶室の体験や、茶の湯にまつわるアイテムの展示が行われていました。
千利休が確立した茶の世界観を、どのように現代的に解釈して表現するかという多様な試みが見られたのは面白かったです。






「いただきます」の意味。食といのちを考えるEARTH MART
その後、バングラデシュのナショナルデー式典を見た後は、当日予約で取れた「EARTH MART」へ。料理に関する活動を多く手掛ける放送作家の小山薫堂さんによる、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を表現するシグネチャーパビリオンの1つです。
茅葺屋根の外観が印象的なのですが、撮影するのを忘れていました。そのうち撮影できたら外観写真を追加したいと思います。
最初にテーマを説明する映像を見てから展示フロアへ。映像は撮影禁止でしたが、建物の実際の扉に、映像が最後に映し出した扉がぴったりと重なり、そこが開いて次のフロアへ案内されるという演出が印象的でした。
展示フロアはいくつかに区切られ、食を通じて生物や植物の命について提示するフロアや、未来の食を提案するフロアなどに分かれています。








せっかく「食」をテーマにしたパビリオンなので、実際に何か食べられるものがあればいいのにと思うのですが、実際に食べられるのは、25年後に開封されるという梅干しの万博漬けまでお預けのようです。その引換券も配布されていました。
まあ、養殖魚を食べるということであれば会場内のスシローがそうだし、他にも新しい食の提案をしている店もいくつかあるので、このパビリオンをきっかけにそういったところを訪ねるというのもいいのかもしれません。
最後の締めくくりとなる映像を見て外に出たら、目の前に広がるのは多種多様ないのちが息づく「静けさの森」でした。これは意図的にそういった流れにしているのだと思います。パビリオン内部にとどまらない、会場と連携した演出が印象に残りました。
極上の食のアートでした。和歌山ゾーンの「Wakayama森と恵みのペアリングセット」
EARTH MARTの次は関西パビリオンへ。予約していた18:30を少し過ぎていたので急いで向かいます。
関西パビリオンの和歌山ゾーンでは、日によって飲食のサービスがあります。パビリオンを予約する時には、飲食付きか飲食なしかを選んで予約する形になります。
飲食メニュー「Wakayama森と恵みのペアリングセット」の値段はなんと6,000円!です。まねき食品が販売する、神戸牛を使った「究極のえきそば」が3,850円ということで話題になっていましたが、そんなのは目じゃありません。
正直言えば、私も伝えるためのネタとして食べてみたという感じで、もしこうして書くことがなければ手は出なかったと思います。
関西パビリオンに入り、和歌山県ブースの飲食コーナーで会計を済ませて案内された席に着席すると、目の前に木の切り株が置かれています。この上に食事が置かれるのかな……? などと漠然と考えていたのですが、実はこの桐の切り株が器になっていたのでした。


結論から言うと、「食のアート」として極上の体験で、体験としては文句なくお勧めです。インバウンド価格という意見も見られますが、単に物価差だけで高くなっているのではなく、これだけのものを作り上げることに対する価値として、6,000円というのは決して高くはないと思います。
この料理についてのXのポストで「和のアフタヌーンティー」という言葉を見て、それだ!と納得感がありました*1。今回はドリンクにスパークリングカクテルを選んだのでティーではないのですが、煎茶と柑橘のドリンクも選べます。
どれもシンプルな味わいではないので、食べたり飲んだりした感覚を、言葉で表現することも難しいのですが、なんとか言語化してみたいと思います。
メニュー名、原材料などは品書きをもとにしています。品書きや原材料、製造者などの情報は下記のページをご覧ください。
品書きに書かれた各メニューのコンセプトは、一見、大言壮語のように見えるのですが、食べてみたら「そうそうそんな感じ!」と首を縦に振って同意できます。
桃源花の森|桃、檜のドリンク
2種類から選べるドリンクはこちらを選択。もう1種類として煎茶や柑橘のドリンク「若苗の露」があります。
軽い炭酸の口当たりにほのかに果実が香る、ノンアルコールなスパークリングカクテル。桃がメインですがあくまで香りで、さまざまな風味(原材料一覧によるとローズウォーター、エルダーフラワーシロップ、ライム果汁、桃の果皮、レモン果汁、いちじくの葉、檜)がどれも主張しすぎることなく溶け合い、心地よい清涼感がありました。
咲匂ふ杜|上生菓子
練り切りです。
私が「いい和菓子だ」と思う基準の一つに、甘さが口の中で後に残らないということがあります。それはもう当然として、上品な味わいの中に森の空気の静謐さのようなものが感じられ、このセットの世界観を象徴するような一品になっているのではないかと思いました。
朝露のかけら|錦玉羹
「どれから召し上がられても結構ですが」としつつ、「繊細な味なので」と最初に食べるよう勧められた錦玉羹。見た目は抹茶かなと思ったのですが、そうではなく、和歌山産のうすいえんどうの緑らしいです。だからといって豆の味というわけでもなく、たぶん檜抽出液やライム、ミントなどの効果だと思うのですが、森の木々の匂いが感じられるような爽やかな味わいとなっていました。
上にトッピングされているのは卵白のメレンゲのようです。
秘境の果実|求肥餅
スモモや山桃の果実の味がはっきり打ち出された求肥餅。確かに、これの後に上の「朝露のかけら」を食べるのはイマイチそうです。といっても、露骨に果実の味がするのではなく、白餡にくるまれた柔らかい世界観が感じられます。
他の繊細な味わいとの対比ということもあるのでしょうが、果実の甘さ、おいしさ、瑞々しさが感じられ、「果実を食べる喜び」みたいなものを味わえる一品です。
蓮華豆腐|胡麻豆腐
高野山の名物である胡麻豆腐にアーモンドの風味を加えつつ、紫蘇ジュースやローズウォーター、檜でできたソースを加えたもの。
華やかで艶のあるソースの風味が、どこか宗教的な感じもあり、長い高野山の歴史や真言宗の世界へ誘うような、そんな胡麻豆腐でした。
アーモンドの風味が少し強いようにも感じたのですが、もともと胡麻豆腐は風味が強いものではないので、これくらいでないとソースに負けてしまうような気もします。私はアーモンドはどちらかというと苦手なので、それで強く反応した感じはあるかもしれません。
爽風の地と土|じゃがいもの砧巻き
根菜の酢の物です。一見、大根を切っただけのように見えるのですが、そうではなく、和歌山の布引大根を薄くスライスし、ジャガイモの極細切りをぐるぐると巻いた砧巻きです。ジャガイモってこんなに白かったっけ?と思うぐらい大根と同化しているので、食べてみるまでまったく気づきませんでした。
砧巻きを浸した酢は、米酢をベースとしたやさしく風味豊かな味わいとなっていました。
萌ゆる山間|百合根のきんとん
甘みと共に若干の苦みもある百合根の味を活かし、抹茶や醬油なども用いて味を調え、土が草を纏うかのような見た目に仕立てたきんとん。和菓子の作り方で仕立てた料理ということになるのでしょう。清涼感や甘味とはまた違う、森の中や農村にいる時の土の匂いが感じられるような一品となっていました。
高野山の森の参道を思い出しながら
和歌山はそんなに頻繁に行くわけではないのですが、昔からなぜか好きな場所があって、それは高野山の奥の院の参道、森の中をさまざまな墓碑を見ながら進む道です。
このセットをいただきながら、その風景が自然に思い起こされてきました。
それぞれの品の工夫を凝らされた味わいが素晴らしく、食事から自然と森や土の空気が感じられるというのも得難い体験だと思います。6,000円出せるかどうかは別として、出して損はしない、ということは改めて書いておきたいと思います。


観光誘致の圧が凄い関西パビリオン


その他、関西パビリオンでの各県の展示も見れる範囲で見たのですが、大阪市民として正直な感想を言うと、「そこまで観光誘致に圧をかけなくても」と思いました。
熱心にPRしようとしていたのはわかるのですが、大阪からは行こうと思えばすぐに行けるところで、逆に言えば行かないのは現時点での取捨選択の結果なので、改めて熱心に推されてもなあ、と思ったりします。
ただ、関西以外から訪ねて来られた方や、海外から来られた方には興味を引く内容もあるかもしれません。
福井県は恐竜推し
「恐竜王国福井」を掲げてましたが、正直恐竜にそこまで興味がないので……。
ブース内がいっぱいで、入るのに時間がかかりそうだったのでスルーしました。
三重県は熊野古道の特別企画を実施中
「イマーシブ熊野古道」という体験型のプログラムがあったようですが、そんなのこんな狭い空間で体験するよりも、実際に行く方がいいに決まってるので……。
熊野古道はいつか行ってみたいと思っていますが、こちらも入るまで時間がかかりそうだったので今回はスルーで。


滋賀県は映像と立体表現を組み合わせた地域PR
滋賀県はシアターでの地域PR。シアターの中央に、多数の小さなLEDボールが上下する仕掛けがあり、それが映像と連動した表現は見ごたえがありました。LEDボールは花火、水のしぶき、川の流れ、紅葉、布地などいろんな映像と連動し、立体的な表現をもたらしていました。
でも、途中退出自由とは言え、映像はあれもこれも盛り込もうとちょっとダラダラしている感があったので、緩急をつけるなどしてもう少し短くまとめる方がいいんじゃないかなあ、と思いました。


「古都・京都」ではないPR
京都府は、どうせ寺社仏閣や舞妓や京町家とかのPRでしょ、と思いがちですが、誰もが思い描くそうした京都らしさを振り捨てて、「国際マンガミュージアム」「花山天文台」「京都鉄道博物館」に振り切った方向性はありだと思いました。
ただ、それらを通して京都の何を見せたいのか、という統一的なコンセプトがもっと明確にあるとよかったのかなあ、という気がします。




ゆったりのんびり和歌山県
他県のように積極的なPRはしていない和歌山県のブースですが、他県のブースの圧がかなり強めなので、これくらいゆったりしててもいいと思いました。目立つ見どころがない分、ブースに滞在する人も少ないので、居心地は一番よかったです。
奥には上述した飲食のカウンターがあるので、騒々しい展示にはしにくい面もあると思います。
ちなみに、ブース内のしつらえにいろいろな県の工芸品が用いられているようです。
いろいろ情報を見ていると、和歌山県はブースでの展示よりも、屋外のイベントスペースでの、時期ごとのイベントに力を入れているような感じがします。


「ミライバス」なのに未来の話がなかった兵庫県
兵庫県はシアターでの映像による県のPR。ただ、子ども向けの基礎知識的な話にとどまっているうえ、「ミライバス」に乗って兵庫県を訪ねるというストーリーでありながら、過去の話ばかりで未来の話はほとんどなかったのはなぜだろう、と思いました。
コウノトリの人工繁殖の試みとか、震災復興における「創造的復興」の提唱とか、もっと深く掘り下げれば見どころのある展示になったんじゃないかな、と思ったりするのですが。
映像は撮影禁止だったので写真はありません。
徳島県はインタラクティブな展示が充実
徳島県は藍色を基調としたデザインのブース。染め物や工芸品の展示、特産のすだちに関する展示のほか、スクリーンによる観光案内など、多様なコンテンツが展開されていました。私は見てるだけでしたが、染め物体験や、阿波踊りに合わせてスクリーンの画像が変化する演出など、インタラクティブな体験を重視する方向性はありだと思いました。
また、このブースでは、京阪神から徳島県への高速バスや、南海電車とフェリーを乗り継いだ場合の片道運賃が500円となるチケットを配布しています。京阪神から徳島に行く場合のみ使用できます。
expo-to-tokushima.expotokushima.jp






鳥取県は砂丘と漫画の2本柱
鳥取県ブースは鳥取砂丘と漫画の2本柱だったように見えましたが、入口で待っている人が多く、入るまで時間がかかりそうでした。鳥取砂丘は行ったことがあるし、ここで水木しげるさんの展示を見たいとは思わなかったのでスルーしました。
境港市が水木しげるさんの漫画で町おこしをしているのは知っていますが、そういうのは現地で見るからこそ意味があるんじゃないか、という気がします。


関西パビリオンを出たら20時を過ぎていて、この日はこれで会場を後にしました。
5月11日(国内編)のまとめ:「未知なる体験」をどう提供できるか
何度も訪ねていて、万博の醍醐味は、未知なる事柄との出会いだなと思います。それは科学技術もそうだし、世界中の知らない国の歴史や文化、食について出会うというのもそうです。
海外パビリオンは、内容が何であれそれ自体が未知との出会いみたいな感じなのですが、国内のパビリオンやイベントはその点、来場者にどれだけ新しい体験を提供できるかが工夫のしどころなのだろうと思います。
堺市の展示は、千利休が確立した茶の世界観は日本人にそれなりに知られている中で、現代的な解釈による茶の湯の体験を提供し、新しい魅力を提示しようとしているところがよかったなと思いました。
EARTH MARTは一般に知られていない活動やデータなどを駆使し、それを目を引きやすい表現や、インタラクティブな要素も使って表現されていたのが印象的でした。
関西パビリオンは、滋賀県の立体的な表現も見ごたえがありましたが、やはり別途値段がかかるだけあって、和歌山ゾーンのペアリングセットが別格でした。
まだ、国内の企業パビリオンやシグネチャーパビリオンはあまり巡れていないので、今後はそちらにも目を向けていくようにしたいなと思っています。