君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

「おかえりモネ」の舞台を訪ねて (9)気仙沼の内湾地区と大島へ

f:id:katayoku_no_hito:20210530130729j:plain

「おかえりモネ」で、気仙沼と亀島を結ぶ定期船として登場するファンタジー

宮城県気仙沼登米を主な舞台とした、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」。

5月17日に放送が始まりました。

気仙沼沖の島で育った主人公の永浦百音(愛称が「モネ」)が、高校卒業後に祖父のつてで登米で仕事に就き、そこでの出会いをきっかけに気象予報士を志す……という話なのですが、連続テレビ小説の定番である幼少期からのスタートではなく、話は登米で仕事を始めたところからスタートします。

前回は、放送開始後に登米市を訪ね、おかえりモネ展やロケ地を訪ねたことを書きました。

a-train.hateblo.jp

今回は、もう1つの舞台である気仙沼の各地を訪ねました。

仙台~気仙沼間の高速バス、1往復を気仙沼大島へ延伸

前回、仙台~登米町間のバスの増発について書きましたが、ミヤコーバスが運行する仙台~気仙沼間の高速バスも、ドラマの放送開始を受けて変化がありました。

仙台から北上したバスは、気仙沼市街地を時計回りにぐるっと巡ってJR南気仙沼駅が終着なのですが、そのうち1往復は気仙沼市街地を抜けて気仙沼大島(以降、単に「大島」と書きます)まで延伸する形になりました。

http://www.miyakou.co.jp/cms/express/desc/14/

ダイヤは上記URLからご覧いただけますが、大島の発着は真昼ごろなので、日帰りというより1泊してじっくり見て回る用途に向いていそうです。

ドラマで登場したように、東の浜辺から昇る朝日を見るといったこともできるので、時間があれば泊まってみたいところです。

今回、このバスには乗らなかったので紹介のみです。

気仙沼駅から内湾へ

5月末、気仙沼駅前から市役所前を通って集客拠点の内湾地区まで歩いてみましたが、至るところに「おかえりモネ」のポスターが貼ってあり、どこにいても360度見渡せば必ずポスターが見えるんじゃないか、という勢いでした。

f:id:katayoku_no_hito:20210530102345j:plain

気仙沼駅前の観光案内所
f:id:katayoku_no_hito:20210530104738j:plain
f:id:katayoku_no_hito:20210530105352j:plain
気仙沼駅から市役所にかけての古い町並み

f:id:katayoku_no_hito:20210530113706j:plain

気仙沼市役所

f:id:katayoku_no_hito:20210530125650j:plain

「内湾」と呼ばれる集客施設が集まる中心部には横断幕が掲げられていました。

内湾付近のロケ地

その内湾付近には、いくつかのロケ地があります。

これまでに登場した場所を紹介しますが、今後もいろいろと出てくるのではないかと思います。

f:id:katayoku_no_hito:20210530120321j:plain

酒屋の「武川商店」として登場していた武山米店。内湾に近く、かつて出航に適した風を待ったことから「風待ち地区」と呼ばれた地区にあります。この地区には文化財として登録されていた建物が多く、震災で被災した後に再建されていたりします。

f:id:katayoku_no_hito:20210619074144j:plain

その風待ち地区の少し山側。モネの父の耕治が、モネの幼馴染を見つけて「未成年のくせに酒を飲むのか…!」と声をかけようとしたところ。

f:id:katayoku_no_hito:20210619075632j:plain

モネの幼馴染のりょーちんこと及川亮が、モネの妹の未知と話をしたり、後ろからこっそりつけてきたモネを逆に驚かせたりした岸壁。対岸に丘があり、朱塗りの回廊が見えるのが特徴です。

遊覧船(気仙沼ベイクルーズ)に改めて乗ってみる

気仙沼湾には、内湾から大島付近をめぐる遊覧船(気仙沼ベイクルーズ)が運航されています。船には下のファンタジー号が使われています。

f:id:katayoku_no_hito:20210530130728j:plain

ドラマでは、まだ本土と亀島の間に橋がなく、定期船が運行されており、そこで使われているのがこのファンタジー号です。

実際には、2019年4月に橋が開通した際に定期航路は廃止され、ファンタジー号が神戸から気仙沼にやって来たのが2020年なので、この船が定期航路で使われていたことはありません。

f:id:katayoku_no_hito:20210606082142j:plain

実際に定期航路で使われていたのはこちらのカーフェリー。現在は大島の浦の浜に係留されています。

以前、遊覧船については下記の記事でご紹介しましたが、放送開始後どうなっているかなと思い、改めて乗船してみました。

a-train.hateblo.jp

f:id:katayoku_no_hito:20210530152138j:plain

なんと、遊覧船の舳先にまで「おかえりモネ」の幟がはためいています。

実はこの時、乗り込んだのは私の他は外国人と思われる女性3人組だけでした。彼女たちが日本語の案内を聞いていたかどうか定かではありませんが、船内の観光案内は実質的に私のためだけだったので、やりにくそうで申し訳ない感じもしました。

この日はまだ、ドラマでは気仙沼編が始まる前でした。なので、この遊覧船がドラマで登場することもあまり認知されていなかったと思います。

f:id:katayoku_no_hito:20210619100437j:plain

気仙沼湾を進むファンタジー号(乗船とは別の日に撮影)

f:id:katayoku_no_hito:20210530144630j:plain

昨年秋の時には、ロケのために「永浦水産」の看板がかかっていたかき処理場は、すでに元通りになっていました。

船内にはグッズや軽食の売店があるのですが、その係員の方が気仙沼編をとても心待ちにしていた様子で、

  • モネが帰省で港に着いたタイミングで、このファンタジー号がちょうど登場するようにロケをしたこと(第11回)
  • モネの回想の中で、震災後にモネが島に戻る場面(第15回)でエキストラとして撮影に参加されていたこと

などを話してくださいました。

なお、今年4月からは内湾発に加え、大島(ウェルカム・ターミナル)発でも運航されています。

f:id:katayoku_no_hito:20210530145107j:plain

この赤い船が大島発の遊覧船。出発地は異なるものの、大島の北側の折り返し地点は同じなので、その付近ですれ違います。

大島の観光拠点、大島ウェルカム・ターミナルへ

日を改めて、ドラマの「亀島」のモデルである大島(気仙沼大島)を訪ねました。

大島には気仙沼市街地とを結ぶミヤコーバスの路線バスがあり、JRの気仙沼駅鹿折唐桑駅の駅前も経由するので、公共交通で向かうことができます。

浦の浜(大島ウェルカム・ターミナル)で下車。この日はここを拠点に巡ります。

f:id:katayoku_no_hito:20210606080439j:plain

ウェルカム・ターミナルの施設に掲げられた横断幕

f:id:katayoku_no_hito:20210606081056j:plain

先に書いた通り、この浦の浜にはかつて定期航路で使われていたカーフェリーが係留されており、その隣からは大島発のベイクルーズが発着します。

f:id:katayoku_no_hito:20210606084156j:plain

港の近くに植樹とともに置かれた碑。

f:id:katayoku_no_hito:20210606084053j:plain

震災で港が破壊された大島は外部との移動手段が絶たれて孤立し、救援もままなりませんでした。米軍が揚陸作戦を実行して救援路を確保し、それ以降、トモダチ作戦の一部として約1ヶ月間、大島での支援活動にあたったそうです。

その時の交流を記念した碑が、震災から10年を記念して建立されたのでした。

www.sankei.com

また、ターミナルの施設内には、ドラマの15回の「震災直後に亀島を渡るための船を出してくれた人がいた」というくだりのもとになったと思われる実話が紹介されています。

f:id:katayoku_no_hito:20210606092405j:plain

他に、「おかえりモネ」に関する展示や物販もありますが、登米市の「おかえりモネ展」のようにまとまったものではなく、新聞記事やWebサイトの特集記事の掲示などが中心で、登米であった撮影用の小道具や出演者のサインのように目を引く展示があるわけではありません。

f:id:katayoku_no_hito:20210606134858j:plain

そんな中で目を引いたのは気仙沼の見所マップ。どうもドラマの進行にあわせて追加されていくような感じです。後日、別の場所で同じマップを見た時には上の写真よりいくつか追加されていました。

大島ウェルカム・ターミナルでは、レンタサイクルのサービスがあります。電動アシスト付きで、2時間で500円、1日(17:00まで)で1,000円。これを利用して島内を巡ることにします。

大島のシンボル、亀山へ

まず向かったのは、大島のシンボルである亀山。

以前は浦の浜から山上のレストハウスまでリフトがあったのですが、震災で麓の駅と山上駅が被災するなどして撤去されています。気仙沼市長が、復活の資金にするために前澤友作氏のお金配りに応募していましたが、結局、応募したすべての自治体に薄くばら撒くことになったため、リフト復活にはつながらなかったようです。

前澤友作氏より 500 万円のふるさと納税を受領します(気仙沼市Webサイト)https://www.kesennuma.miyagi.jp/sec/s002/020/030/050/020/090/09/2020-12-24kikaku.pdf

山頂近くにあるレストハウス付近は、駐車スペースがないというか、転回にすら苦労するほどの狭いスペースしかないため、多客が見込まれる日には中腹の駐車場から上は車両乗り入れ禁止となり、駐車場からレストハウスまで無料シャトルバスが運行されます。

自転車なら直接山頂へ向かうこともできますが、なかなか大変そうなので駐車場まで向かい、そこからはシャトルバスに乗り換えることにします。

上の地図では徒歩30分程と出ていますが、自転車だと10分ちょっとです。基本的に上り坂なのですが、駐車場までは道路が整備されていて走りやすいので、電動アシストを使って地道にがんばって上っていけば特に問題はないと思います。また、ずっと上りというわけではなく、中間あたりで微妙に下りになるところがあり、そこで一息つくことができます。

f:id:katayoku_no_hito:20210606121346j:plain

亀山駐車場とレストハウスを結ぶ無料シャトルバス

駐車場の二輪車スペースに自転車をとめ、シャトルバスに乗り換えます。シャトルバスについて詳しくは下記ページをご覧ください。

kesennuma-kanko.jp

f:id:katayoku_no_hito:20210606100421j:plain

そんなこんなで亀山レストハウスまで来ました。

f:id:katayoku_no_hito:20210606120325j:plain

亀山レストハウス前の広場。この大漁旗が掲げられている場所が、「おかえりモネ」第13回の回想シーンで、モネ達が吹奏楽の演奏を披露したところになります。

この時に演奏された「アメリカン・パトロール」のフルバージョンが、主題歌の「なないろ」と交互に流されています。番組終了の1年後まで続く予定だそうです。

kesennuma-kanko.jp

ドラマで一部しか登場しなかった曲がフルサイズで聴ける、ということをアピールしているのですが、実はこの曲はすでに、ドラマ内でフルサイズで登場しています。

それは、第14回でモネの幼少期から中学生の頃までを振り返る場面。この楽曲が最初から最後まで流れ続け、トランペットソロに父親の演奏シーンを重ね合わせたり、モネからクラリネットに誘われた妹の未知が、次のカットでクラリネットソロを吹いているといったように、映像と楽曲がシンクロした見ごたえのある演出でした。

ただ、当然ながらドラマではシーンに合わせて音量を絞ったり、セリフが被ったりしているので、演奏だけを堪能するなら亀山レストハウスに行くしかありません。

なお、一般的に演奏される「アメリカン・パトロール」のジャズバージョンは、ドラマで放送されたよりも短い尺のようです。上の回想シーンでいえば、みんなが永浦家に集まって練習して、おばあちゃんや、妹の未知がスイカやお茶を用意する場面で終わります。

つまり、その後モネが必死に未知を吹奏楽部に勧誘する場面、そしてそのBGMが実は吹奏楽部の練習だったという最後の場面は出てきません。おそらく、そういった構成上の理由でつけ足されたのだと思います。

亀山展望台へ

f:id:katayoku_no_hito:20210606104559j:plain

レストハウスから数分、遊歩道を歩いていくと亀山の山頂です。

f:id:katayoku_no_hito:20210606104712j:plain

山頂にはちょっとした展望スペースが設けられていて、遮るもののない360度の眺望を楽しむことができます。

f:id:katayoku_no_hito:20210606104810j:plain

亀山は大島の北側に位置するので、南を見れば大島を一望することができます。

f:id:katayoku_no_hito:20210606104905j:plain

西には気仙沼の市街地が広がります。

f:id:katayoku_no_hito:20210606105433j:plain

大島といわゆる「本土」をつなぐ気仙沼大島大橋(鶴亀大橋)。ドラマでも時々、島の悲願だとか着工したとか語られる存在ですが、開通したのは2019年ですので、ドラマの後半では姿を現すことになるのではないかと思います。

f:id:katayoku_no_hito:20210606113541j:plain

北東方向の眺め。この日は全体的に靄がかっていてスッキリ見えませんでしたが、一番手前の山地が唐桑半島、中央に見える岩礁陸前高田市の広田半島の先端、そして左上にぼんやり見えるのが大船渡市の綾里崎あたりではないかと思います。

f:id:katayoku_no_hito:20210606113334j:plain

展望台を少し下ると「小亀山」という場所があり、そこは島の北側の唐桑半島との間の海域(大島瀬戸と呼ぶそうです)を見るのに適しています。穏やかな養殖の風景の他、遊覧船が行き交うところも見ることができます。

田中浜へ

亀山から浦の浜へ戻り、昼食後はもう1つのロケ地、田中浜へ。

f:id:katayoku_no_hito:20210606141334j:plain

ドラマではお盆休み、幼馴染同士で朝日を見たり、麦わら帽子が無限に飛ばされたり、盆船奉納を行ったりしたところです。

なお、田中浜は離岸流があるため遊泳禁止です。泳ぐ場合はすぐ南に小田の浜海水浴場があります。

f:id:katayoku_no_hito:20210606141050j:plain

田中浜の防潮堤の手前では防災林を再生中。被災地の海岸ではよく目にする光景です。

f:id:katayoku_no_hito:20210606145050j:plain

小田の浜の方は周囲を民宿やレジャー施設で囲まれていますが、田中浜は静かな佇まいなので、ロケ地に適しているのだろうと思います。

f:id:katayoku_no_hito:20210606141303j:plain

砂浜に放置されたままの小型船。津波で流されたものなのかもしれませんが、そういったコンテクストを切り離して今そこにあるものとして見ると、景観上のアクセントになっているのは確かです。

大島グルメ

大島のグルメは、基本的には気仙沼一帯のグルメと共通ですが、そこに大島らしさが加わっているのが特徴です。

f:id:katayoku_no_hito:20210606115030j:plain

亀山レストハウスでいただける、ホヤと茎ワカメのおにぎり。ホヤは気仙沼市のPRキャラクター「ホヤぼーや」にもなるぐらいの気仙沼の名物ですが、そこに大島産の茎ワカメが加わっています。ホヤは臭みがツラいこともあるのですが、新鮮なホヤはほとんど臭いがなく、おにぎりの塩気もあってまったく気になりませんでした。

f:id:katayoku_no_hito:20210606123859j:plain

大島ウェルカム・ターミナルに隣接する店舗群「野杜海(のどか)」にある「麺酒庵こまつ」のフカヒレラーメン。フカヒレ気仙沼を代表する名産品ですが、一般的に食べられている中華風スープのラーメンではなく、醤油ラーメンに大島産の海藻類をたっぷりトッピングしたもの。海藻とフカヒレのコリコリ感のコラボが楽しいです。

f:id:katayoku_no_hito:20210606160216j:plain

同じく野杜海の「青と緑の茶や haru」でいただいたヨーグルト。トッピングのブルーベリーが大島産です。漁師町の気仙沼ですが、果物の栽培も行われており、「おかえりモネ」で「北限のゆずまつり」として登場するゆずも大島の特産品です。

まとめ

f:id:katayoku_no_hito:20210606170346j:plain

大島・浦の浜の夕景

「おかえりモネ」では、気仙沼登米は違った描き方をされているように見受けられます。

  • 気仙沼……モネと家族や幼馴染との人間模様を、震災をきっかけとした変化も含めてじっくりと描写
  • 登米……「診療所とカフェを併設した森林組合事務所」という架空の施設を舞台に、リアリティよりもノリの良さを重視した展開

登米市のロケ地はあちこちに分散し、切り貼りするように形作られているのに対し、気仙沼の方は現実をなぞるような構成のため、ロケ地もあまり分散せず、多くが内湾付近と大島に集中しているのが特徴と言えそうです。

今後もどんな場所が出てくるのか、楽しみにしつつ見ていきたいと思っています。