6月1日~30日の予定で行っていた「ハタコトレイン」企画が、その内容に批判が殺到して10日で打ち切りになった件。阪急にしては珍しい、お粗末な顛末でしたね。
【はたらく言葉たち×阪急電鉄】「ハタコトレイン」が6月1日から走ります!
パラドックスが年に一冊発行している、誇りを持ってはたらく人々の思いを紡いだ言葉集「はたらく言葉たち」が、阪急電鉄とコラボレーションすることになりました!
(中略)
梅田を起点に神戸・宝塚・京都の3線に延びる阪急電車の
各線1編成(8両)の車内空間を「はたらく言葉たち」がジャックし、
その名を「ハタコトレイン」として運行します!
そうして掲載された車内広告が不愉快だということで問題視されたのでした。
特に注目を浴びたのは以下の文。
毎月50万円もらって毎日生きがいのない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。
研究機関研究者 80代
そもそも30万ももらってねーよ、という批判が集まっていました。
でも、80代の研究者であれば、その長い人生でいろいろあっただろうし、個人的な経験を踏まえた言葉だという文脈を考慮すれば、特におかしい話でもないんですよね。
上の文のうち、「50万」「30万」という具体的な数字さえ外せば、もう少し受け入れられやすかったのではないかと思います。
今回の広告のもととなった「はたらく言葉たち」のサイトを見てみました。
いろんな「はたらく言葉」が掲載されています。
見た感想として、車内広告以前に、この言葉の切り取り方自体がすでに危ういものがあるなあ、と思いました。
当該企業が行っているコンサルティングの中で聞いたというこれらの1つ1つの言葉は、それぞれの個人の経験や実感に基づくものとして、それなりの価値はあると思うのです。
ただ、それはやはり個々の経験に根差すものであって、経験という文脈から切り離して最も刺激的な部分だけ取り出してみても、それが読み手に正しく伝わるとは思えません。
書籍なら、読む人が自ら手に取るわけですから、切り取られた言葉を読んで、自分なりに引き取っていろいろと考えたりすることもあるでしょう。
でも、車内広告は自ら選び取るのではなく、別に見る気もないのに見せられることになるわけです。
しかも、1両1か所ならともかく、車両のどこを見てもこの手の広告で埋め尽くされているとなると、文脈から切り離された言葉だけを押し付けられ、それを消化することを強いられるわけですから、こんなものを車内で見せるなと思う人がいても不思議ではありません。
残念ながら、書籍と車内広告というステージの違いについて、あまり考慮がされていなかったのではないかという感じがします。
※2019/6/12追記
通常、こういった広告は出稿者が制作し、受け入れる側(今回は阪急)は、よほど法令や倫理に触れるようなものでなければ通すでしょうから、「阪急の失敗」と言えるのかは難しいところがあります。
ただ、今回は以下の毎日新聞の記事で、広告の制作自体に阪急側が関与していることが窺えるため、「阪急電車の失敗」というタイトルとしています。
阪急電鉄「働き方啓蒙」中づり広告「月50万円」に「不愉快だ」など批判、掲示とりやめ
問題視された広告は、阪急電鉄が神戸線など3線で各1編成の車両を「はたらく言葉たち」という書籍から抜粋したメッセージ広告で埋めた「ハタコトレイン」。阪急電鉄と、同著を発行したコンサルティング会社・パラドックスの共同広告事業だ。
(中略)
広告に関し、阪急電鉄は「通勤や通学利用が多く、働く人々を応援したいという意図で企画した。社内で掲載文を選ぶ過程で、不愉快な思いをさせてしまうかもしれないという指摘や懸念はまったくなかった」と説明。30日までの掲載予定だったが、前倒しで広告の中止を決定し、「配慮が足りず、結果として不適切な表現があり、申し訳なく思っている」と話している。(注:強調は引用者による)
※2019/6/17 冒頭の画像を変更しました。